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第十六話 インド洋海戦(2)

イギリス艦隊からの攻撃が始まり、小沢艦隊の祥鳳は沈没、旗艦の龍驤も復原の見込み無しとされ総員退艦命令が下されていた。

小沢は旗艦を瑞鳳へ代えて、既に艦隊を反転させ離脱するべく北上をしていた。


「空母には空母を、戦艦には戦艦を・・・単純な戦力勝負で今の我々に勝てるとでも思っているのかな。」


大和司令塔、山本は堀ら参謀組と話している。


「敵空母艦隊は南雲の航空隊で十分すぎるだろう。問題は近藤艦隊だ。長門、陸奥と榛名だけでは敵の戦艦と撃ち合ったときにどうなるかもわからんな。」


山本は海図上に配置されている、山本艦隊の駒を持ち上げると南の方へと動かした。


「我々も敵戦艦部隊へと急行し、前衛艦隊の援護をするべきだよ。近藤艦隊だけであの部隊の戦艦を沈めきることは恐らく不可能、ならば我々が援護して撃滅するべきだろう?何よりもこいつを有効活用しなければといったのは堀だしね。」


山本の問いかけに堀は異議はない、というと次に南雲機動部隊の駒を持ち上げて北上させる。

日本機動部隊の艦載機の航続距離は、アメリカ、イギリスの物に比べれば圧倒的に長大である、だからこそ北上すれば敵機動部隊との距離は開き、更に有利な位置から攻撃を仕掛けることが可能であると堀は説明し、山本もそれに賛同する。


「にしてもイギリスの空母にアメリカの航空隊が載っているなんてな。おかげで龍驤と祥鳳を失ってしまった。」


SBDドーントレス、1,000ポンドの爆弾を搭載可能なこの機体はイギリスの航空機に比べればはるかに攻撃力に優れていた。

墜落機から脱出したパイロットを偶然一名救い出していた小沢は尋問の結果、自分たちがインドミタブル、フォーミダブルに編入されたとの情報を手にしていた。


「まあ、もとは瑞鳳も失うものだと思っていたんだから、一隻でも残ってくれているだけ儲けものだと考えた方がいいんじゃないかな。」


山本はそう言うと発信器を手に取って各艦隊へ指示を出し始める。

山本は南雲機動部隊への北上命令と、近藤艦隊の減速、自身の山本艦隊の南下を指示した。

大和型の打撃力は絶大である、が失うことは許され難い、となれば前衛艦隊が最初に殴り合い、途中参加で大和、武蔵を筆頭とした山本艦隊が介入することが一番効率の良い使い方である。

敵艦隊と近藤艦隊の予想接敵時刻は今から20時間後、近藤艦隊を減速させた分戦場は手前側になり、追いつくのは恐らく交戦開始から4時間後ほどである。

同時に敵のA部隊、B部隊の両部隊を蹴散らし、一瞬でインド洋を掌握してやると山本は内心意気込み、微笑んでいる。

だが堀は何かに引っかかるようで神妙な表情をしていたが、本人もそれが何かも分かっていないようで特に何も言わずにそのまま山本を見守っていた。


※同時刻 南雲機動部隊 旗艦赤城


ここ南雲機動部隊では敵機動部隊撃滅の為慌ただしく発艦作業が行われている。

合計8隻の正規空母から一斉に発艦する機体たち、その光景は圧巻であった。


「司令、敵機動部隊攻撃隊は20分後に全機発艦いたします。」


航空参謀の源田が南雲と草鹿に報告すると、南雲は頷く。

赤城を始めとした南雲機動部隊では南雲の命令で、第一次攻撃隊にて敵空母部隊を撃滅可能と判断し、第二次攻撃隊にはトリンコマリー空襲の為に陸用爆弾を搭載させていた。

だが南雲はミッドウェーの顛末を思い出し、航空参謀の源田の意見も聞いた方が良いと内心思いふと問いかけてみた。


「源田、貴官の計算でよい、この攻撃隊で敵の機動部隊は撃滅可能か?」


源田は少しの間黙り、うーん・・・と唸る。

それを急かすことなく南雲も草鹿も見守っていた。


「司令が育て上げたこの部隊、練度は世界最強を名乗るに相応しい、名乗ることが許される世界唯一の部隊です。共に私どもが作り上げた機体もまた艦載機としては現在世界最高の性能を持つものばかり。規模もまた世界最大であり・・・正直に言うとこれで撃破出来ない訳がないと私も思うのですが・・・。」


「ですが・・・?」


意味ありげな、締りの悪い言葉に南雲と草鹿は同時に反応した。

源田はまたも少し時間をおいて、自分の考えを説明し始める。


「空母とはいわば海上を自由に移動できる航空基地です。しかし本物の基地は違う、逃げも隠れもしないのです。一度空母を逃がせば再び相まみえるのはいつになるかは分かりません、確実に仕留めるのが使命であるのなら、時間を惜しまずに徹底的に叩くのも悪くないかと。」


源田の言葉に南雲は一理ある、と同意する。


「今ここで、対艦装備への換装を命じたら、なにか起こるか?」


その南雲の言葉は当然、ミッドウェーを意識した発言であろう。

様々な要因があるとはいえ、自身の命令のちぐはぐで巻き起こした悲劇、史実を知ったうえでこの度の換装を命じるのは、確たる証拠がないにしても、そういったことが起こるのではないかという不安が脳内で起こるのも仕方のないことであった。


「司令、かのミッドウェーで大敗北を喫した時は、敵に未発見だった空母がいたことが要因です、現在はその空母を攻撃するか、しないかと判断をする場面。この換装命令に関しては状況が違います。敵の空母は小沢艦隊の攻撃でほとんどの艦載機を使い果たし、今は帰還途中、今から艦攻の陸用爆弾を魚雷に換装したら凡そ2時間ほどかかりますが、第一次攻撃隊が襲撃した後の残りを処理するには十分な猶予があります。もし第一次攻撃隊で三隻とも撃沈することが出来た場合には、南方近藤艦隊前方に現れた敵戦艦部隊へとこの部隊を向けることも可能になります。トリンコマリーの優先順位は、時間の余裕もある今では最下位に近いものです。」


「確かにその通りかもしれん・・・わかった、現在準備中の第二次攻撃隊は対艦装備へ換装、敵艦隊攻撃へ任務を変更する。」


源田の発言に納得すると、南雲は正式に対艦装備への換装を命じた。

源田は航空に関しては海軍きってのエリートであり、山本を始めとした上層部からの信頼も厚い人物である。

航空参謀という専用の役職を持つこの男がそういうのであればと、南雲も何か詮索する気にもならず、了解したのであった。


第一次攻撃隊が全機発艦し、その後格納庫内では慌ただしく換装作業が行われ始めている。

その時、電探に反応があった、北西セイロン島方面に距離50キロほどの地点、

だがそこにあったのは恐らくトリンコマリーから発進してきていたブレニムであった。

直ぐに対空迎撃を命じ、直掩に上がっていた零戦隊が急行し10分ほどして撃墜に成功したものの、位置報告をさせるには十分な時間を与えてしまった。

正規空母八隻からなる大艦隊をこれだけの時間があって見落とすとも考えにくい。


「バレたか・・・恐らく第一次攻撃隊を発見してどこから来たか探るために進路を遡ってきたのだろう。」


神妙な表情を浮かべる南雲に、草鹿と源田はすかさずフォローを入れる。


「司令、場所が今さらバレたところでですよ。もうかの部隊を終わらすために攻撃隊が接近していますし、今ここを攻撃することが出来る艦載機も残ってはおりますまい。」


「むしろこれでイギリス艦隊は絶望の淵に立たされたでしょう。空母を二隻沈めることに成功し、大戦の反撃の狼煙を上げたつもりが実はそれが別動隊で、本隊はまるっきり後方に残っていたなんて・・・そしてそれの攻撃隊は着々と自分たちに向かってきているのですから。」


源田はそういうと微笑みながら南雲と目を合わせる。

それには南雲も少し安心した表情をしながらそうだな、とつぶやいた。


「敵艦隊を発見し、航空隊を発進させた時点で隠密の意味はないですから。敵空母には我々の攻撃隊が向かい、南方の戦艦部隊には近藤艦隊に山本艦隊が、敵の手が我らに届く事はありません。」


南雲機動部隊は実際北上しながら既に敵から離れている、部隊が危機に陥るのであればそれは攻撃隊に致命的な問題が発生し、南方の近藤艦隊、山本艦隊の敗北を意味しており、そもそもそうなれば南雲機動部隊だけがどうこうというレベルの話ではないのだ。

逆に今この時まで南雲機動部隊を隠せていたことは、大成功であり結果としてイギリス艦隊は一気に窮地へと立たされることとなった。

奇襲に見えた機動部隊への攻撃は二隻の空母を撃沈する効果を上げたもののそれは陽動の為の囮部隊であり、逆に艦載機を出払った今逆襲するための大編隊が向かってきている。


だからこそ今この場にいる誰もが、この度の海戦の勝利を疑っていなかった。


「我が艦航空隊の換装完了まで残り半刻程。」


既に換装作業開始から一時間半が経過した。

整備長からの報告を聞き、南雲は甲板へと目をやるとそこにはエレベーターからは換装作業の必要ない零戦が次々と甲板へと上がってきている様子が見えた。


「あと少しで第一次攻撃隊が敵艦隊に到達する、まずは・・・淵田たちがやってくれることを祈ろうか。」


南雲はそういうと懐から煙草を取り出して草鹿と源田にも差し出す。

源田からの火を貰うと深く吸い込み一服、少し表情が和らいだようにも見えた。


ご閲覧いただき誠にありがとうございます。


次回もまたこれくらい間隔があくかもしれませんが、なるべく早く更新できるように頑張ります。


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