表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/35

第十話 大陸打通作戦南方戦線(1)

1942年1月15日 日中戦争南方戦線


大陸打通作戦及びビルマ作戦の始動により一気に攻勢を仕掛けた日本軍は、ドイツに倣い主力部隊を一点集中し敵の前線を突破、随伴部隊がその穴を埋める形で前線を拡張しており、対中国の大陸打通作戦において、北方では陝西省西安を、南方インドシナでは雲南省昆明を第一段階目標として侵攻し、共に一歩手前のところまで侵攻していた。


対する中国軍は北方には主力が存在していたものの、南方インドシナは陸軍による防衛線が貧弱であり、支援が早急に必要な状況であった。

蒋介石は南方戦線に対し陸軍の対応は間に合わないと判断し、時間稼ぎの為アメリカ義勇軍である航空隊、フライングタイガース及び中国空軍航空隊を、ビルマ戦線の援護もでき好都合と考え四川省成都へ移動させた。


日本軍は10日頃から移動した同隊の襲撃により侵攻が遅延し、航空隊が南方に出現したことを受け、陸軍は第33戦隊、陸軍の九七式戦闘機36機が主に対応していたが性能で劣る上に決定的に数が足りず、海軍航空隊が派遣されることが決まった。

サイゴンに駐在していた南方方面艦隊傘下の第22航空戦隊は陸攻が主力であり、代わりに山本は南雲機動部隊所属の航空隊から各戦闘機部隊を派遣することを決定した。


実戦に勝る経験はないとし、控えたインド洋作戦の為に最新鋭の零式艦上戦闘機を擁する各航空戦隊戦闘機隊を派遣し、経験を積ませようという考えであった。


一航戦、二航戦、五航戦、六航戦から派遣された零式艦上戦闘機は総数156機となり、インドシナ半島北東部にあるヴィン飛行場へ集結し、南雲機動部隊航空参謀の源田実が司令の下、特南方援護戦闘隊、通称特南戦隊を形成した。


そして全機が揃い2日後、各機の整備、打ち合わせなども終わったこの日から特南戦隊は活動を開始した。


※同日 雲南省普洱市上空


昆明すぐ手前に位置するここ普洱市にて南方戦線先鋒は中国軍爆撃機の爆撃により補給部隊、補給拠点が爆撃され、足止めを受けている。

真珠湾攻撃の後、アメリカは本格的に中国へのレンドリースを加速させ、日本軍を攻撃していた。

この日はアメリカから受領した20機のB-25ミッチェル、ソ連から受領した30機のANT-40にて日本軍前線補給基地を爆撃しようと発進していた。

それを発見した陸軍南方司令部付の百式司令部偵察機は各司令部へ連絡、源田はすぐさま全機発進を命じ、日本軍先鋒が占領したここ普洱市の上空にて両軍の航空隊は衝突することとなった。


フライングタイガース隊長のロバート・ニールは40機のP-40を率いて、中国空軍爆撃隊を護衛していた。

ここ数日の活動はうまくいっている、迎撃してくる部隊はどれも小規模で、移動前に相手していた部隊の一式戦に比べ性能も劣っていた九七式戦闘機であった。

前日までと同じ、爆撃隊の護衛任務でニールは飛行しており、その時頭上に影を発見した。


「ん?奴らの戦闘機は普段あんな高さを飛んでいたか?・・・まあ、我々に勝つには高度を取るしかないというのはたしかに正しいか。」


ニールはにやりと笑い、各機散開を命ずる。


「お出ましだ!今日も相手してやるぞ!一旦高度を下げさせてから各機速度で殴れ!敵は降下してきてもウォーホークにはどのみち追い付けん!」


昨日までと同じだ、登場当初は中国軍相手に優位に立っていた九七式戦闘機だが、今時P-40に敵うはずがない、そう思っていた。

爆撃機をすぐに落とせる火力もないと思っているのはニールだけでなく、フライングタイガース全員がそう思い護衛対象である爆撃隊をそっちのけで散開してしまう。

直後、先頭を突っ込んできた敵機は、最初の突撃で右翼にいたP-40二機を一瞬で撃墜した。

その瞬間ニールは自分が誤ったことを悟った、比べ物にならない攻撃力、速度のそれは、以前北方にて中国空軍が遭遇した、今までのどの機体よりも圧倒的に強いと報告が上がっていたそれであると直感したのである。

その今までとはあまりにも違うシルエットの機体を見て無線機に向かってニールは叫ぶ。


「違う、やつらはゼロファイターだ!逃げ切れない、格闘戦で対応しろ!」


確かに速度で逃げ切れないなら格闘戦に移るしかない、だが既にその指示は遅すぎた。

後ろに急降下により速度有利で張り付いた零戦をP-40が加速だけで引きはがすことなど到底不可能であった。

余りにも早いペースで次々と落とされていく僚機を見てニールは冷や汗をかいている。

何よりもニールを混乱させたのが、未だに突撃してこない大量の敵機が上空に見えたのである。


「いつの間にこんな大軍が・・・!クソが!」


未だ自分はターゲットになっていない、すぐに反転し追われている味方を見つけ援護に入ろうとする。

そして照準器に日本機を捉えかけたその時、一瞬にして視界から「それ」が消える。


「なに!?」


余りにも一瞬の出来事、後ろを向くとついさっきまで照準器に捉えようとしていた零戦が背後へ回り込んでいた。

機首を上げ減速しながら360°ロール、複葉機かと勘違いしてしまいそうなほどにその動きは軽快であった。


「化け物か、こいつら!」


必死に操縦桿を倒し射線をずらす、全く引きはがせる様子はなく、ニールは絶望の淵に立たされていた。

背後の零戦から放たれた攻撃はニールのウォーホークに穴をあける。

だが、もうだめかとあきらめかけていたその時、後ろについた零戦が突如爆発を起こし錐もみしながら墜落していった。


「誰だ?!」


驚きと共に背後を見ると僚機が通り過ぎる、助かったと安心するも、自分を助けたその僚機が次は餌食となってしまった。


「・・・すまない。」


機体の性能差だけではない、どう考えても敵の練度は異常であった。

ひたすらに翻弄され、ウォーホークが失速間際でも敵の機体は信じがたい挙動をするし、それを実現しているパイロットもまた別次元であった。

上空で最初の方は留まっていた残りの敵部隊は続々と爆撃隊に襲い掛かり、B-25とANT-40をやすやすと撃墜していく。

既に1/3程が撃墜されており、そこで爆撃隊が爆弾を次々と投下して反転していく。

目撃したニールは、肩を落としながら呟いた。


「そうか、撤退か・・・。」


既に40機いたP-40は15機程しか残らず、当然百を優に超えるこの敵編隊に勝ち目など存在しない。

だがあと一歩というところまで来ての撤退にニールは虚しさを感じていた。


「撤退だ!各機隙を見て空域を脱出しろ!」


先の攻撃でラダーを飛ばされたニールは必死に機体を安定させ、自身も空域を逃れた。

逃げる敵を追い討ちしないのか、それとも燃料が切れたのか、理由は分からないが撤退を始めた時点で日本機もニール達を追うことはしなかった。

だが、このたった15分程度の乱戦でフライングタイガースは半分以上の22機が撃墜され、爆撃隊も12機のB-25と20機のANT-40を失ったのである。

アメリカからの航空機移動がインド経由となってしまっている現在、この損失は簡単には埋まらない、中国にとってあまりにも痛手であった。


数時間後 特南戦隊司令部


次々と着陸してくる戦闘機を見ながら腕を組みじっと滑走路わきのテントのもとに座っている人物が一人、特南戦隊司令官の源田実であった。

そして滑走路に降り立った零戦から降りてすぐに駆け付ける人物、六航戦の慶鶴戦闘機隊隊長の飯田正仁大尉である。

源田は手を伸ばし握手をすると、ご苦労、といって椅子を用意する。


「し、失礼いたします。」


用意されていたお茶を飯田に持たせると、自身も口に運び一口飲みこむ。


「どうだった、まずは機体の方から聞こうか。」


源田の質問に飯田は笑みを浮かべながら報告を始めた。


「はい、小隊長機以上にのみ改造されたという新型の20mmですが威力は当然変わらず、弾速、弾道は非常に良好、弾数も多く何をとっても全く持って不足がありません、B-25の翼が一瞬でへし折れました。」


今回の戦いから小隊長以上の機体には軍技廠にて試作され少数生産された九九式20mm機銃二号銃が取り付けられていた。

銃身を延長し、一号銃の欠点であった弾速の遅さ、そしてそれが招く弾道特性の悪さを改善しており、海軍は新人パイロットでも命中率の高いこの二号銃の早急な配備を熱望している。


「わかった、二号銃の経過は良好と伝えておこう。」


源田は満足げにメモを取る、だが次に飯田は零戦の撃たれ弱さを指摘する。


「ただ、零戦には構造上の弱点が存在します。」


その言葉に源田は筆を止め、防弾性か、と答えた。


「はい、本日の戦いでは、蒼龍、翔鶴から一機ずつ被撃墜がありました。当然完勝と呼べる結果ではありますが、落とされた両機は燃料タンクに被弾し、一瞬にして火だるまとなり錐もみ状態となりながら落ちていきました。零戦はアメリカ戦闘機の標準火器であるブローニング機銃を燃料タンクに受ければひとたまりもありません。あの脆さでは、脱出もままならず燃えなければ脱出して復帰できたものもそのまま戦死するしかなくなります。まあ・・・性能に不満は一切ありませんが、安心感はありません。それと、一号銃の装弾数は少ないですね、爆撃機の相手をしているとすぐに撃ち切ってしまいます。」


その言葉に源田は表情を変えることなく頷き、再び筆を走らす。


「飯田、君の言うことは全くもって正しいよ。その問題点は我々も認知しているから、後継機では改善されるはずだ。」


日本海軍が零戦を正式採用した理由は緒戦において連合国において対抗できる戦闘機がいなかったこともあるが、それ以上に既に計画が進み変更が出来ないところまで来ていた零戦を1から設計しなおすくらいであれば性能向上型として量産した方が効率的であるという判断が下されたからであった。

だがその後弱点などが知られた後の苦戦ぶりを知ることとなった上層部及び軍技廠は既に源田が次期艦上戦闘機計画として主導し後継機種の設計を始めている。

当然計画内容などは末端の兵士に話せるものではなかったが、少なくとも実戦を経ている兵士の経験談は源田からすれば何にも代えがたい意見であった。


「それと・・・君に預けた5人はどうだ?」


源田は海軍主力機動部隊の航空参謀という地位に物を言わせ、ある行動をしていた。

岩本徹三、西沢広義、坂井三郎、武藤金義、藤田怡与蔵、後のエースパイロットと呼ばれる逸材をなんと新人のうちから六航戦の慶鶴戦闘機隊へ編入していた。

勿論これらの逸材がいずれ日本海軍を代表するエースパイロットへなる人物であるなどこの場には源田しか知る者はいない。

飯田はこの5人の成長ぶりに感嘆したと源田に告げた。


「源田さんの人を見る目には感服せざるを得ません。あの5人はまさに鬼神となれる逸材、なぜ慶鶴に、私の下へお預け頂いたのかはわかりかねますが、見た者から言わせていただきますと我が慶鶴戦闘機隊は南雲機動部隊の中でも最強になれる人物が揃っています。」


その言葉に源田は満足げに頷く。


「実はな、あの5人はいずれ撃墜王になると思う。いや、ならねばならん。いずれ実績を積み経験も積み、実力を身に着けたらそれぞれ隊長を任せようと思っている。」


源田は内地にいた際図書館にて、エーリヒ・ハルトマンというドイツのエースパイロットについて読む機会があった。

撃墜数はさることながら、部下を失わないことに誇りを持ったというかの人物に源田は感銘を受け、そのようなエースパイロットを輩出し、隊長に据えることでかつての日本軍で問題だったというパイロットの消耗を避けようとしていた。


「特に岩本徹三、やつはまさに異次元です。ちょうど視界に入ったので見ていたのですが、零戦にあれだけの挙動を行える性能があったのかと思わされました。実際今日の一番槍は岩本で、突入と同時に進路上にいた二機を一度の急降下で仕留めてしまったのですから隊長としての自信がなくなってしまいますよ。」


飯田は笑いながらも若手の躍進に心を躍らせているようだった、源田もその様子を見ながら満足そうな表情を浮かべる。


「飯田、いいパイロットの最たるものは、僚機を死なせないものだ。自分だけ、自分だけとなってはいかん。君は今日、隊の部下を失うことなく帰ってきた、隊長としての役割をこの上なく果たしていると私は思うよ。先の零戦の話、使いやすさこそ抜群も防弾性は皆無・・・これは後々大きな足かせとなるに違いない。我々は優秀なパイロットを失う余裕はない、わが軍の中で最も高価なのは優秀な人材の命なんだから。零戦が窮地に立たされる前に後継機を開発し、無駄にパイロットを殺さずに済むように掛け合うから、貴様も部下を極力失わない努力を怠るでないぞ。」


そういいながら源田は立ち上がり、司令部へと歩いていく。

飯田は源田に褒めて頂いたことに感激を受け、にやつきを我慢できないまま立ち去る源田に敬礼をしていた。


その後中国空軍による散発的な襲撃が行われたが、特南戦隊は所属する航空戦隊ごとに分かれ迎撃活動を行い、これに成功し続け、補給路が三日間で簡易的に修復された。

南方において制空権を完全に確保した日本軍はこれにより補給問題も解決し、南方戦線先鋒部隊は進軍再開から四日後に昆明へと到達したのであった。

ご閲覧いただき誠にありがとうございます。

ブックマーク、評価、感想などして頂けると幸いです。

誤字脱字等ありましたらご報告ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
変態技術で不可能とされていたベルト給弾を実現した事で飛躍的に弾数を増やせた。 1号も2号もエリコン20ミリをラ国した段階ではドラムマガジンなので弾数はそこまで多くない。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ