求婚
忍れど 色にでにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで
【隠しているつもりなのだが、顔に出てしまう。人に「恋をしているのですか?」と悟られ、聞かれるほどに。】
背中を押してくれた友がにやけた顔で言った。
「おい、旨くいったんだよな?」
「何が?」
「恍けやがって……こいつ……。」
「だから、何のことなんだよ。」
「隠せてないぜ。愛美ちゃんとのこと……。」
「えっ?」
「旨くいったんだよな。顔に出てるぜ!」
「えっ?」
友の言葉に慌てて顔を触っている僕に友は言った。
「嘘だよぉ~。」
「何なんだ……。」
「でも、なんか嬉しそうだから……いい進展があったのかなぁ~って、ね。」
「うん。話そうと思ってたけど……職場で詳しくは、な。」
「そうか……そうなんだな…。」
「うん。付き合うことになった。」
「おめでとう! 良かったな……本当に良かった……。」
「うん。ありがとう。」
「結婚が決まったら教えろよ。真っ先に! いいな!」
「けっ…こん……。」
「決まったら教えろよ! さぁ診察、診察。」
「……結婚……。」
古に ありけむ人も あがごとか 妹に恋ひつつ 寝ねかてずけむ
【昔の人々も僕のように、愛しい人を思って寝付けない夜があったのだろうか。】
愛美と付き合い始めて日も浅いのに、僕は結婚を意識していた。
少しでも一緒に居たいからだ。
こんな気持ちになるなんて思いも寄らないことだった。
過去の自分に「恋は素敵だぞ!」と言ってやりたいほどだった。
勇気を出して求婚することにした。
一世一代の……僕の……想いを伝えよう。
「あの……まだ、付き合って間が無いのに……変かもしれない。
でも……僕は……君とずっと一緒に居たいと思ってる。
だから……僕と結婚してください。 お願いします。」
「………ほ…んと…に?」
「うん。ほんとに! 結婚して欲しいんだ。」
「先生……嬉しい……。」
「それは……OK…ということ?」
「はい。」
それから僕は愛美の両親に挨拶に行った。
僕の両親のことを話して、親族は大叔母一人だということも伝えた。
愛美の両親は喜んでくれた。
嬉しかった。
叔母には電話で伝えた。
そして、愛美の家族との親族の顔合わせに出て貰いたい旨を伝えると、「行くわよ。絶対に! ありがとう。嬉しいわ…。」と大叔母の涙声が聞こえてきた。
大叔母の声を聞いて僕も涙が出て来た。
「家族になれるんだ。愛美と……。」
その喜びがゆっくりと胸の中を広がっていった。