交際
思いつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば さめざらましを
【恋しい人を思いながら眠りについたから、夢に現れたのだろうか。もし夢だとわかっていたら目を覚まさなかったのに。】
僕はどうしても出来ないことがある。
それは【恋】。
父が母の妹と恋をして、母を捨てたからだ。
母を捨てた父の血、そして捨てさせた母の妹の血。
僕は二人の血を………。
僕は怖いのだ。
父と同じ過ちを起こすことが怖いのだ。
だから、誰も愛せないと…そんな資格は無いと思っていた。
僕が出来ないこと、それは恋。
でも……心揺るがす出逢いをしてしまった。
臆病な僕を愛してくれて……待ち続けてくれた。勇気が出るまで……。
愛美と出逢って、僕の人生は彩りを得た。
この恋は愛美の告白から始まった。
「安藤先生、あの……手紙……読んでください。」
「えっ?」
手渡された手紙に驚いている僕を置いて走り去った。
手紙をくれたのが愛美だった。
最初は全くその気がなかった。
でも、愛美が何かにつけ視線の中に入ってくる機会が増えていくと心は揺れていった。
いつの日か……僕は愛美のことばかり考えるようになった。
思へども なほぞあやしき 逢ふことの なかりし昔 いかでへつらむ
【あなたを恋しく思っていると、あなたに会う前はどんな気持ちで過ごしていたのか不思議に思います。】
「和優、お前……どうするんだ?」
「どうするって?」
「何を……恍けやがって……。村上愛美さん!」
「あ………どうって……どうって……。」
「好きなんだろ? お前、見つめてるしな。」
「そ…んな…こと……。」
「……あのな……もう自由になれよ。」
「自由?」
「そうだ! もう親のしたことに捉われた人生、止めろよな。」
「分かって貰えないと理解している。」
「勿論、分かんないよ。
だけどな、無駄な、無駄な人生になっちまう。
このままだと……。」
「無駄って言うなよ。」
「ごめん。ただ分かって欲しいんだ。
血が繋がっていてもお前はお前。親は親だ。別なんだよ。」
「別だと言い切れないんだ。」
「話してみろよ。彼女に……。全てを……。」
そう押されて、僕は両親のことを彼女に話した。
話し終えた僕に、彼女は静かに言ったのだ。
「お父様と叔母様の血を受け継いでいる。
そうですよね。受け継いでいる。
でも、お母様の血も受け継がれていますよ!
そして、そのお母様が育てた安藤先生なんですよ。
……もし……将来、先生が他に好きな女性が出来たとしても…
先生なら先に私に話してくれると信じています。
信じられます。
だから……哀しいこと言わないで……。
恋が出来ない……なんて哀しいこと……。
いつか、いつの日か、私じゃなくても誰かを愛せます。
先生なら……。」
「…ありがとう。」
「ありがとうって言って貰えるようなこと言ってませんよ。」
「僕……君を好きになっても……いい?」
「……えっ?……私…?」
「うん。君しか居ないよ。」
「……………嬉しい……。」
僕は愛美と付き合い始めた。