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恋歌  作者: yukko
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愛息

あしひきの 片山雉 立ち行かむ 君に後れて うつしけめやも

【片山のキジが飛び立つようにあなたに旅立たれて、どうして私は落ち着いていられましょうか。】

 

息子は今日、巣立っていった。

長かったような……短かったような……。

息子を育てていて、私も少し大人になったと思う。

大変だったから……。

昼も夜も働いた。

若女将だった頃に姑に教えられたこと、生け花など学びに行かせて貰ったことが役に立った。

働いたのは旅館だった。

今は仲居頭になった。

住み込みで働けたのが大きかった。



ちぎりきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波こさじとは

【約束しましたよね。互いに涙で濡れた袖を絞りながら、末の松山を波が越すことがないように、二人の心も決して変わらないと。】


あの頃の私は……夫の不義を知った頃の私は……

人知れず涙で枕を濡らしていた。

辛かった。

相手が妹だったから……猶更、辛かった。

何が行けなかったのだろうか……教えて欲しかったが、夫を問い詰められなかった。

妊娠を知った時には「もう無理なのだ。あの人の心を取り戻せない。」と分かっていた。

だから、何も告げずに離婚した。

妊娠した私を叔母だけが助けてくれた。

出産してから今の旅館に勤め始めた。

叔母は妹と縁を切ってくれた。

妹に私に息子が要ることは知られていない。



(しろがね)も (くがね)も玉も 何せむに まされる宝 子にしかめやも

【銀も金も玉も何になるだろう、子に勝る財宝があるだろうか。】


この子だけは守りたかった。

大人の複雑な関係から守りたかった。

それが正解とは言えないと分かっていたが、それしか私の頭の中に浮かばなかった。

親の苦労は当たり前だ。

その苦労を息子にもさせてしまったことが申し訳ないと思っている。今も……

大学には奨学金で通うことになった息子。

私の叔母の家に居候することになった息子。

これから自分で道を切り開いて欲しいと切に願っている。

元気で居て欲しい。 頑張れ!

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