出産
別れをば 山の桜に まかせてむ とめむとめじは 花のまにまに
【別れは山の桜に任せましょう。止める止めないは花に任せて。別れたくないけど言えない、引きとめることはできないから、桜が散ったらお別れだと思うことにしよう】
私は愛していた。夫を……。
だから、舅、姑とも上手くやっていく努力をしていた。
料亭の若女将として勤めあげられるよう努力もしていた。
なのに……夫が私の妹に手を出した。
それも本気だった。
苦しかった。
辛かった。
それでも努めて明るく若女将として勤めたのだ。
痩せてしまった私を心配した姑に、夫と妹のことを話した。
泣きながら話した。
それから後は舅と姑が私を支えてくれた。
夫が私と離婚したいと思っていることを知った日。
あの日、私は偶然、夫の気持ちを知ってしまったのだ。
夫の書斎の机の上にあった本の間に入っていたメモに記されていた気持ちを……「和子と離婚して雅美と一日も早く結婚するために……」というメモを……。
そのメモの後の文字を私は読めなかった。
どれだけ時間が経ったのか……。
妹の「お姉ちゃん、お店に行かなくていいの?」という声で、私の空白の時間が動き出した。
それから、どういう返事をして、どんな顔で過ごしたのか分からなかった。
この日、私は離婚を決意した。
そして、舅と姑に相談した。
家を出る時に私は妊娠していた。
妊娠三カ月だったが、伏せて離婚した。
この子は私が一人でも育て上げるのだと決めて離婚した。
そう! この子は私だけの子。
産まれてきてくれた子は男の子だった。
それから私は懸命に働いた。
息子を育て上げるために………。