勘当
人の親の 心は闇に あらねども 子を思ふ道に まどひぬる哉
【人の親の心というものは闇というわけでもないのに、子を思う親心となると、まるで闇夜で道に迷うように、思い迷って分別をなくしてしまうことです。】
和子が出て行った後、父から話があると言われた。
「話って何?」
「お前と雅美さんの結婚式には出ないと決めた。」
「……そうか……。」
「それから、店も辞めて貰う。」
「何故!」
「お前、自分がしたことの意味、解ってない!
店には信用という大切なお客様のお気持ちがある。
お前がしたことは信用を失うことだ。
先祖代々培ってきたお客様の信用……。
お前の行為は、妻の妹と懇ろになったお前の行為は……
お客様にとっても嫌なことなのだぞ。」
「そんな……それほどのことでは……。」
「それほどのことなんだ!
だから、解雇する。」
「店はどうなるんだ? 俺は跡取り息子なのに……。」
「跡は他の方にお願いするよ。」
「血が繋がってない者を跡取りにするのか。」
「そうだ。血の繋がりなど意味がない。」
「そんな……じゃあ、俺達はどう生きろと!」
「和子さんも同じだと分からないのか?」
「和子には金を渡した。」
「お前にも渡すよ。退職金を……。」
「退職金……。」
「後は、二人で頑張ればいい。
お前たちは二人なんだから……。
和子さんは一人になったんだぞ。」
「雅美さんを嫁とは認められないわ。
和子さんは若女将としてお客様の信頼もお受けしていたのよ。
ただ、好き勝手していた雅美さんとは違うの。
二人でどこかで暮らしなさい。
その覚悟は出来ていたんでしょう。
出来ていないなんて言えないのよ。」
「……分かった。出て行くよ。
ただ、出る日は俺達が決めるから!」
「それでいい。ただし早く出て行ってくれ。
私たちはお前を勘当する。いいな。」
「分かったよ。」
俺は家業を継ぐことも出来なくなった。
家も出ることになった。
でも、愛する雅美と一緒になれる幸せを感じていた。