離婚
逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり
【貴方と逢って愛しあった後の心に比べれば、それ以前の物思いなど無かったようなものだ。】
俺は貯金全てを妻に渡した。
両親が立ちあう場で………。
それと、引き換えに離婚届に署名捺印した。
妻は……震えていたようで、文字が書けないようだった。
妻を好きだったから結婚したけれど、妻の妹が同居するようになってから妻の妹と関係を持った。
あれは……雨の日だった。
その日、たまたま家に居たのが俺だけだったんだ。
妻・和子は入院中の実母の所へ行っていた。
雨に濡れてビショビショの妹・雅美にタオルを渡した時だった。
雅美が抱き付いて来た。
「好きなの……。」
⦅嘘だろ………。⦆
「好きなの……私じゃ駄目?」
潤んだ瞳から目を離せなくなった。
その日からだった。
後は、高い所から落ちていくような速さで惹かれていった。
惹かれただけではなく外れてしまったのだ。
人としての道を………。
和子の実母が入院先で亡くなった後、俺は和子も同じなのに母親を失った悲しみに暮れる雅美を独りに出来なかった。
妻に寄り添うことよりも、妻の妹に寄り添ってしまったのだ。
和子が居ない時は自宅で雅美と抱き合っていた。
「結婚しよう。」
「いいの?」
「うん。けじめをつけるよ。」
「嬉しい!」
そう約束してから間もないことだった。
和子が両親を連れて寝室に入って来たのだ。
「なぁ、いつから分かってたんだ?」
「……母が亡くなった直後……。」
「そうか……。」
「貴女はあの子と抱き合ってたわ。
見てしまったの………。
それからは……地獄だった……。」
その後は言葉にならなかったようだった。
和子は泣き崩れた。
「すまない。」
和子は何も言わなかった。
父が話し始めた。
「和子さん、もう頼れる親御さんが居ない君のことが私たちは心配なんだ。
何かあったら必ず……必ず頼って欲しい。
息子が………本当に申し訳ない。」
「和子さん……ごめんなさい。」
「……お義父さん、お義母さん……
謝らないでください。
今まで、ありがとうございました。
どうか、お元気で………。」
「ありがとう。君も元気で……。
どうか幸せになってくれ。」
「幸せに……。」
「ありがとうございました。
さようなら………。」
結婚5年で終わった。
和子を傷つけて申し訳なかったと思っている。
和子には幸せになって欲しいと思っている。