発覚
あしひきの 山のしづくに 妹待つと 我立ち濡れぬ 山のしづくに
【私は貴方を待って、あしひきの(枕詞)山の雫に濡れてしまいました。】
我を待つと 君がぬれけむ あしひきの 山のしづくに ならましものを
【私を待って濡れたとおっしゃるその雫になって、貴方に寄り添いたかったです。】
心地よい秋風が二人を包んでいた。
俺は彼女を抱きしめていた。
俺が彼女とベッドで過ごしているその時、寝室のドアが開いた。
「あなた………。」
「…ど……どうして………。」
「キャッ!」
彼女は布団を頭まで被り顔も姿をも隠した。
「あなた、お話があります。」
「ま……待て。」
「服を着なくても……そのままで聞いてください。」
服を拾い上げていき、拾い上げた服を床に座った妻が泣きながら畳んでいる。
妻の後ろに入って来たのは父と母だった。
「と……父さん!」
母は布団を持ち上げて彼女の姿を晒しだした。
「止めて!」
「母さん、止めてくれ!」
俺が母を止めようとすると、父が俺を殴った。
「馬鹿者ぉ~!」
かくばかり 恋ひつつあらずは 高山の 磐根し枕きて 死なましものを
【こんなに貴方を恋い慕っている苦しさに耐えているより、高い山の岩のもとで死んだほうが良いくらいです。】
「あなた……誰に手を出したのか分かってらっしゃいますよね。」
「……分かってる。」
「どうされたいのですか?」
「離婚したい!……と思ってる。」
「私は……そんなに嫌われてしまったのね。」
「お前を嫌いになった訳じゃないんだ。
お前よりも彼女を好きになった……それだけ……。」
「それだけ? それだけ………私の心……どうでも良かったのね……。」
「すまない。和子……。」
「離婚……します。」
「本当か?」
「……はい。」
「そうか………。」
「でも、私が生活できるようにしてください。
離婚するってことは、店も辞めないといけない……。
私は無一文では……生きられないから……。
当面のお金をください。」
「勿論だ。そうか……離婚してくれるんだな。
ありがとう。和子。」
「お姉ちゃん、本当に?」
「貴女に『お姉ちゃん』とは呼ばれたくありません。
貴女とは縁を切ります。」
「お姉ちゃん……。ごめんなさい。でも、好きになっちゃったの。」
「和子さん! こんな目に遭わせてしまって……
本当にごめんなさい。」
「和子さん、うちの馬鹿息子が……申し訳ない。
店からも退職金を渡すよ。」
「そうだ。それがあれば、いいよな?」
「何を言ってるんだ! お前は!
お前はちゃんと払うんだ。有り金全て、和子さんに渡すんだ。」
「有り金全部って……。」
「お前は……私たちはこんな情けない子に育ててしまったのか……。」
「父さん。」
「お前が渡す金とは別だ。お前は貯金全てを渡せ! いいな!」
「父さん!」
「和子さん、この子にはきっちり払わせますから……。
どうか私たちを信用して………。」
「………はい。………お義父さん、お義母さん……ありがとうございます。
この家には……もう……居られません。
今日、このまま出て行きます。
お店も辞めることになってしまって、申し訳ありません。」
「和子さんが悪いわけじゃない! 悪いのは、この二人だ。
謝らないでくれ!」
「そうですよ。お店のことも気にしないでね。
この子から渡すお金、悪いけど日にちはこちらで決めさせて貰うわね。
離婚届はその時に……ね。
これから後の暮らしのことも相談に乗らせてね。お願い……。」
「……はい。」
この日、俺の離婚が決まった。