プロローグ
僕には好き嫌いが無かった。
これは良い事なのだろうか。悪いことなのだろうか。
例えば、食べ物に好き嫌いはありません。とてもいいことだろう。
しかし、人にも好き嫌いが無いと言ったらどうだろう。
嫌いな人がいないことで、全員を平等に見れるということで良いことかもしれない。
心を許せる人がいない。
本音を言うことが出来ない。
そういう風なことを言う人は多々いるが僕は本音を言うことが出来なくても生きてはいける、と思う。
確かに好き嫌いが無いことで困ることがある。
小学生や中学生での、最初の自己紹介。
「自分の名前と好きなものを一つ上げてください」と、言われて僕は困った。
とりあえず「趣味は読書です」しか言えない。
僕の中での趣味は、習慣化されているものとして捉えていた。
その後の休み時間に読書好きの人から「好きな小説は?」と訊かれても答えられない。
ただの習慣の中に好き嫌いなど発生しないからだ。
そういう風にいたら僕は不思議な奴として扱われた。
これは、自分でも仕方が無いことだと割り切っている。
そうこれは仕方が無い。
僕には好き嫌いが無いのだからだと。
一般的な人間ではない。
友達なんていらないとすら思っていた。
人間はある程度一人で生きていける。
もし困って人の手が必要となったときは他人という存在で事足りる。
医者も先生も農家も、赤の他人だ。
だから友達という存在を別に僕は欲しいと思わなかった。
そんな僕をあるクラスメイトが変えてくれた。
そのクラスメイトは、女の子でクラスでは目立つタイプで、彼女は好き嫌いがはっきりしていて、僕には持ってない物をすべて持っていた。
初めて会ったときは、変な奴としか思えなかった。
でも彼女は僕を変えてくれた。
僕は初めて好きだと思える人に会えた。
でも、この世にはいない。
だから彼女にこの思いは伝えられない…。
椎名由衣にあの言葉はもう伝えられなかった
この作品は私が中学三年生の時に書いた作品を少しだけ手直ししたり、新しいエピソードを追加して投稿していきます。投稿頻度が低いかもしれませんが、最後までお付き合いいただけると幸いです。