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43 エレナとアイラン王妃殿下の提案

「エレナ!」


 お兄様は、ちゃんとわたしを追いかけて来てくれていた。


 流石にもう殿下に抱き付いてはいなかったけれど、わたしが殿下と一緒にいるなんて思ってもいなかったのか、お兄様は驚いた表情を見せた。


 私たちのことを探してくれていたらしいアイラン様も合流すると、お兄様の私室に向かうことになり、促されるままにソファに座る。


「申し訳ありません」


 お兄様が、突然殿下に頭を下げる。


「エリオット、頭を上げろ。何が起こってるのか説明してくれ」


 ソファにお兄様が座るとその隣にアイラン様が座る。

 わたしもお兄様の隣に座ろうとしているのを見て、殿下は自分の隣に座る様に指示した。

 殿下に泣いて縋ったのを思い出して恥ずかしくなったわたしは、殿下から離れてソファの端に小さくなって座る。


 呆れたように殿下は小さくため息をつきお兄様を見つめる。


 お兄様が口を開いた。




***




 お兄様のかいつまんだ説明に殿下はため息をつく。


 ユーゴが起こした事件は監督不行き届きだ。


 お兄様はひたすら謝罪を繰り返し、わたしもまだソファの端で小さくなったまま。


『ねぇ。さっきから何言ってるかわからないんだけど、結局エレナは駆け落ちするの?』


 状況が掴めないアイラン様から質問されお兄様が改めて説明をはじめる。


『しませんよ。駆け落ちというより、女神として領地に残るべきだなんて好き勝手な事言ってるだけです。僕も父上達も認めません』

『ふーん? で、どうしてみんながエレナを女神様扱いしているわけ?』

『えっと、三十年くらい前にトワイン領は日照りや水害の被害が立て続けに起きて、農地が壊滅的な打撃を受けたことでうちは没落しかけたんです』

『あんな一面に麦畑や果樹園が広がってるのに?』

『はい。その後十年近くかけて、父上やお祖父様が堰堤や水路などの灌漑設備の整備に奔走して、やっと収穫が見込める様になったんです。だけど、今度は返済もできないくらい借金が嵩んでしまって、納税もできなくなっていたんです。方々に頭を下げて今度は金策に奔走したらしいんですけど、没落しかけてる我が家に投資はおろか、金を貸すなんて慈善事業みたいな事、誰も首を縦に振ってくれなくって、最後父上が恥を偲んで王妃様に借金を申し込んだんですよ。そこで父上と王妃様の女官をしていた母上が出会って恋に落ちて、結婚したんです』

『まぁ!』

『最初は、王妃様に借金を申し込むなんてとんでもない事だから、母上は、父上の事訝しんでいたんですけど、父上の熱心なアプローチに母上が絆されて──』

「ゴホン」


 お兄様によるお父様たちの長大なロマンス話が始まりそうなのを察したのか、殿下は咳払いをする。


『えっと、で、灌漑設備の効果が出た後に僕とエレナが産まれたんです。今まで没落しかけていたのに、エレナが産まれた頃からずっと豊作つづきで、直系の女の子が生まれたのは久しぶりなものだから、領地の高齢者達はエレナが女神様の生まれ変わりだって信じてるんです』

『お父様やお祖父様が苦労されたのよ。わたしは何もしていないわ』


 わたしはそう言って、やっと顔を上げる。


『エレナは駆け落ちしないのね?』


 アイラン様の言葉にわたしは力強く頷く。


『なんだ。最初はね、駆け落ちなんてちょっといいなって思ったの。わたしと一緒で偉そうな大人たちの都合で決めた政略結婚をするはずのエレナには、好きな人が助けに来てくれるんだって。でも全然羨ましくなかったのか』


 そう言ってアイラン様が笑うので、わたしはまた頷いた。


『とりあえずあの少年が優勝さえしなきゃ、どうってことないんでしょ? 貴族の使用人よりも日頃牧場で働いている平民たちの方が勝つに決まってる』

『それが……余興の様な競争で、みんな必死になって勝とうとしてないんです。皆んなで譲り合って優勝者を決めるような競争だから、このままだと決勝に残った人たちが、みんなユーゴに譲って、ユーゴが優勝しちゃうんです』

『優勝しても、エリオットが認めなければいいだけではないの?』

『そうしたいのは山々なんですけど、あんなに盛り上がってしまうと認めないと暴動が起きかねないし、かと言って認めてしまえば王室に顔向けできないし……』

『エリオットが出て優勝しちゃえばいいんじゃないの?』

『褒美を渡す側が出て優勝しちゃうなんてそんなとんでもないこと……』

『つまり、エリオットが参加したくなる様な褒美を用意すればいいんでしょ?』

『え?』

『わたしは? わたしなら──』


 アイラン様が余裕たっぷりの笑みを浮かべてそう言いかけた途端、けたたましくドアを叩く音が聞こえる。


『アイラン様っ! ここにいるのはわかってるんです! 出ていらっしゃい!』


 怒鳴り声と共にドアが開け放たれ、アイラン様の侍女のネネイが部屋に入ってくる。

 殿下とわたしもいる事に気がつき、想定していた事態が起きていなかった事にホッとした表情を見せる。


『んんっ。失礼いたしました。ほら、アイラン様お昼をいただきに参りましょう』

『嫌よ! まだ話してる最中よ』

『い、い、か、ら、行、き、ま、す、よ!』


 ネネイは怒りに任せてアイラン様の腕を引っ張り、退出していった。

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