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36 エレナとロマンス小説のお姫様

「怒られちゃったね」


 アイラン様達を見送ったお兄様は肩をすくめてるけれど、全くもって悪びれた様子がない。


 そりゃそうよね。


 イスファーン王国は部族ごとにかなり訛りがあるし、ネネイの言葉は言い回しが慇懃で、しかも怒っていたから早口な上に、嫌味も混じっていたし、慣れないとヒアリングしづらい。

 お兄様だって外交の仕事を志してるらしいし、イスファーン人の知り合いも多いから、他の貴族の子息よりもイスファーンの歴史や文化については知っている。

 とはいえ、エレナみたいに分厚い歴史書を読み込んだわけじゃないから、アイラン様の抱えるバックグラウンドもそこまで深く理解していない。

 むしろネネイの話を完璧に理解できたエレナがチートなだけだ。


 そもそも呆れるくらい暢気なお兄様は、妹の話だって聞いているだけで、理解する気がないことはしょっちゅうだもの。

 ネネイの話なんてろくに理解していないはずだから、ネネイが怒ってることの重大さは伝わってない。


 わたしはため息をついてお兄様を見つめる。

 お兄様は眉を顰めてユーゴがいれたお茶を飲んでいた手を止めて、わたしを見つめ返す。


「どうしたの?」

「お兄様。ネネイの言うようにあまりアイラン様にちょっかいを出してはダメよ」

「何言ってるの。エレナが邪魔してって言ったんじゃない。それに編み機だって手に入れたいし」


 そうだった。そうなんだけど……


「お兄様、ありがとう。でももう大丈夫よ。これ以上は取り返しがつかなくなるもの」

「ふぅん」


 お兄様は理解したのかしていないのか、気のない返事をして、お茶を飲みはじめた。


 ……わたしの転生先はアイラン様がヒロインのロマンス小説の世界だとしたら、物語はどれくらい進んでるんだろう。


 わたしがヒロインのライバルで障害となる悪役令嬢なら、お兄様はヒロインにちょっかいを出す「当て馬」だ。

 殿下(ヒーロー)がヒロインへの恋心に気がついてないのを、当て馬が煽って、恋心に火をつける。


 ライバルの悪役令嬢や当て馬がストーリーで活躍するのは、中盤以降よね?


 お兄様はかなりアイラン様にちょっかいを出してるから、当て馬としてかなり尺を稼いでる気がするし、わたしはアイラン様にライバル視されたみたいだから、きっと話はかなり進んでいるはず。

 それなのに……

 当て馬や悪役令嬢が頑張ってるにも関わらず、殿下の恋心は一向に火がついた気配はないし、なんならアイラン様は殿下よりもお兄様に惹かれている。

 だって殿下に惹かれていたら『シリル殿下に見染めてもらわないといけない』なんて義務的な言い回しじゃなくて『見染めてもらいたい』って前向きで期待が込められた言い回しになるはずだもんね。


 もしかして……

 ストーリーが破綻しているの?

 だからアイラン様が殿下よりもお兄様に惹かれてしまってる?


 わたしがあの時にお兄様にアイラン様が殿下に近づいたら邪魔してなんて言ったから話が変わったのかしら。

 ううん。でも、どう考えてもあの発言自体は悪役令嬢の役割を強制発動するためのフラグにしか思えない。

 それにお兄様の振る舞いは、調子が良くてチャラくって、当て馬そのものだ。

 それなのにお兄様がイケメンの全力フルスロットルを盛大にぶちかますから、アイラン様をときめかせちゃう。


 このままじゃアイラン様(ヒロイン)お兄様(当て馬)に恋心を抱いているのに、殿下(ヒーロー)と結婚しないと人生が詰む。なんていう全くロマンチックじゃない話になっちゃう。


 そもそもわたしがいる世界はどんな物語なのか、元のストーリーなんて何一つ思い出せないのに、こんなに破綻した展開になられても困る。

 これからどうすればエレナの破滅フラグを回避できるのかちっとも想像つかないんだけど……


 気持ちを落ち着かせるためにわたしも紅茶を口に運んだ。

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