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34 エレナアイラン王女殿下に襲われる

 いっ痛い! 苦しい! 重たい!


『いやっ! やめてください!』

『アイラン様! エレナ様から離れるんです!』

『エレナばかり狡い! わたしだって! わたしだって!』


 わたしは、アイラン様の下で身を捩る。


 今日のお菓子を配り終わって部屋でくつろいでいたはずのわたしは、なぜか泣き叫ぶアイラン様から襲われている。


 ネネイがアイラン様を引き剥がそうとしてくれてるけど、目が据わっているアイラン様はちょっとやそっとの力じゃ剥がれない。


「えっ? えぇっ⁈ なんでエレナ様がアイラン王女殿下に襲い掛かられているのですか!」

「アイラン様と仲良くしてもらえてよかったね。そうそう、やっとエレナのお菓子配りも終わったし、殿下のことお茶に誘ってみたんだけど、殿下ったらやらなきゃいけない仕事があるんだっていって断られちゃった」


 殿下をお茶に誘いにいっていたお兄様がユーゴを連れて戻ってきた。


 アイラン様に馬乗りされて胸を揉みしだかれているわたしをみて、ユーゴは顔を真っ赤にして叫んでいるというのに、お兄様は暢気にわたしに話しかける。


「お兄様! 助けてください!」

「助けるの? 仲睦ましいと微笑ましく眺めるべきものではないの?」

「違います! あんっ! いやっん! あっあっ!」


 女神様の衣装は体のラインを拾うので揉まれて指が食い込まれているのもよく分かる。


「あはは。殿下が忙しくてお茶飲みにくる暇がなくてよかった。来てたら殿下にエレナの恥ずかしい姿見られちゃうところだったもんね。……あ、でも見られた方が意識してもらえたかなぁ。……まぁ、殿下だし有り得ないか」

「ひぃん! お兄様っ! 助けてってば!」

『わたしだってエレナぐらい胸があれば!』


 アイラン様がわたしの胸を揉む力が強くなる。

 痛い。痛い。痛い。


『ネネイ。アイラン様はどうしたの?』


 お兄様はわたしの助けを求める声は無視してアイラン様の腰に抱きつき引き剥がそうとしているネネイに声をかける。


『お酒を飲んでしまわれたのです』

林檎酒(シードル)? ワインの水割り?』

『間違えて蒸留酒をそのまま……』

『あー……』


 やっと事態を把握したお兄様が頭をかきながらユーゴにハーブ水を用意する様に指示する。


『酔っ払ったんですね』

『酔っ払ってなんていないわ! エリオットだって、エリオットだって胸が大きい方が好きなんでしょ!』


 不機嫌そうなアイラン様の声をものともせずお兄様は心配そうにアイラン様の顔を覗き込む。


『胸の大きさで女の子を好きになりませんよ。好きな子の胸になら触れたい気持ちはありますけど、理性で押さえています』


 そう言ってお兄様は一瞬アイラン様の胸元に手を伸ばすと躊躇った様に手を止めて困ったような笑顔を作る。


 まるで触れたいのを我慢するように。


『ひゃぁぁっ!』


 酔っ払って真っ赤になった顔をますます真っ赤にしたアイラン様は、わたしの身体からばね仕掛けのおもちゃみたいに飛び跳ねて離れソファのはしに両脚を抱えて座った。


 ひぃい。イケメン怖い。


 女の子にこんなことばかりして勘違いさせて、本気になられたりしたら「好きだと言ったことなんてない」と言い逃れるんだ。

 多分そうだ。

 エレナは妹でよかった。

 イケメンに弱いわたしはお兄様に騙される自信しかない。



 まだ目がすわっているアイラン様はソファの上で体育座りになったまま、ネネイから毒味を終えた水のコップを受け取る。


『エレナに悪いことをしたわ』


 一気に飲み干しコップをネネイに押し付けたアイラン様は呟く。


『いえ。気にしておりません』


 痛かったし恥ずかしかったし、気にしてないと言うのは嘘だけど、わたしはアイラン様に微笑みかける。


『エレナに嫉妬しても仕方ないのにね』

『嫉妬ですか?』

『わたしはシリル殿下に見染めてもらわないといけないのよ』

『……どういうことですか?』

『だから、今日、怖いけど勇気を出してアプローチしたのに! エレナよりわたしの方が国益になると言ってもちっともなびかないし、アプローチすればするほど目が冷たくなって馬車の中が冷え切っていくのを耐えたのよ? エレナなんかと結婚しても国益にもならないのに、婚約者になれたんでしょ? わたしがエレナに負けてるとしたら胸だわ。どうせわたしの胸は小さいもの! シーワード領での式典にもたくさん貴族女性がいたけれど、エレナの胸が一番大きかったわ! 国益よりも胸の大きさが大切なの?』


 アイラン様の叫びは支離滅裂だ。


『胸の大きさなんて関係ないはずです! そもそもわたしだって仮初の婚約者ですから』


 また押し倒されて揉まれそうになったので胸を庇って身体をひく。


『じゃあやっぱり……シリル殿下は女性に興味がないのかしら』

『ア、イ、ラ、ン、さ、ま。まだ酔いがさめてないようですから、口を慎んでください』

『ネネイ。うるさいわ』


 ネネイはお兄様とわたしに縋る様な眼差しを向ける。


『わたしたちは何も聞いてません』


 わたしとお兄様は勢いよくかぶりを振る。

 他国の王太子に対して女性に興味がないと噂話を流しているなんていうのは、世継ぎ問題に懸念があるって言っている様なもので外交問題に発展しかねない。

 こんなことで戦争になったりしたら大変だ。

 酔っ払いの戯言は聞いてない事にするのが一番いい。


『聞きなさいよ、エレナ! シリル殿下が女嫌いでもなんでも、このままじゃわたしは、すけべジジイと結婚しなきゃいけないのよ! 助けてよー!』


 アイラン様は、わたしたちが聞こえなかったふりをしている理由がまったく伝わっていないと思われる大声で絶叫すると、泣き出してしまった。

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