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32 エレナ女神様に扮する

 お祭りの間はわたしたちも、領民に振る舞う料理と同じものを食べる。


 朝からガッツリと肉料理がテーブルに並び、一人で女神様の格好をしなくちゃいけない事が憂鬱かつ緊張しまくっているわたしは胃袋がなかなか食べ物を受け付けない。

 真正面でどんどん肉料理を平らげていくお兄様を見ているだけで胸焼けがする。


「お兄様ったら寝起きなのに、よくそんなに食べられるわね」

「寝起きじゃないよ。僕はエレナが起きる前から、ノヴァとユーゴと祭りの準備の最終確認に回ってたからね」


 胸を張るお兄様の後ろで給仕するノヴァとユーゴが顔を見合わせて眉尻を下げている。


「エリオット坊ちゃま。誇らしげなのはよろしゅうございますが、来年はご自身で起きていただきませんと、わたしの腰が持ちません……」

「そうですよ。起こしても起こしても起きないエリオット様を父上と二人がかりで着替えさせて、両脇から支えて歩かせるのは、大変だったんですから」


 騎士にはなれないなんて言っているお兄様でもそれなりに鍛えてはいるので、寝ぼけて寄り掛かられたりなんてしたら、細身のノヴァとエレナより背が高くてもまだ少年体型のユーゴじゃ、二人がかりでもかなり大変だったに違いない。


「ユーゴ、来年からは王都に住んで僕の世話をしなくちゃいけないんだよ。もっと早く起こしに来ないとダメだよ。ユーゴが余裕を持って起こしにこないからノヴァまで駆り出されて腰を痛めそうになったんだ」


 ユーゴ達に注意をされているはずなのにお兄様は何故かユーゴを優しく叱責する。

 ついこないだ十八歳になって成人したお兄様は、まだまだ甘えて起こしてもらうつもり満々でいる。

 いくらなんでもお兄様を咎めてもいいと思うのに、オヨオヨ泣く振りをしているノヴァも、やれやれ顔のユーゴもお兄様に振り回されてなんだか嬉しそう。


 基本的に我が家の使用人達は、わたし達兄妹にめちゃくちゃ甘い。


 なかなか結婚しなくて使用人達に心配かけていたお父様が、やっと結婚して生まれた待望の子供達だから、甘いのも仕方ないかもしれない。


「ほら、エレナも寝起きだからってのんびりしてないで、しっかり食べないと一日もたないよ。今日はずっと女神様の格好しなくちゃいけないんだからね」

「うぅ。言わないで……」


 胃がキリキリする。


「まだ、やりたくないとか無駄な足掻きをしているの?」

「……やるわよ。だって準備万端なメリーからは逃げられない事はわかっているもの。でも、わたしが一人で女神様の格好をしてみんながガッカリされないか心配しちゃうのは、もう仕方ないじゃない」

「何言ってるの。エレナはトワイン領の女神様なんだよ。誰もガッカリなんてしないから」

「そうですよ。そんな態度を取るものはこの領地には誰一人おりません」


 わたしに女神様をやらせたいお兄様や、わたしに甘いノヴァにいくら言われても自信にはならない。

 わたしはため息をつくと、お兄様とノヴァは悲しそうにわたしを見つめる。


「大丈夫ですよ。子供達はとにかくお菓子もらう事を楽しみにしてるだけですから。僕もお菓子もらうの楽しみにしていますね」


 ユーゴがいたずらっ子みたいに笑ってそう言って、わたしも釣られて笑う。


「ふふ。ダメよユーゴ。お菓子をもらえるのは女神様より小さな子だけよ。ユーゴはもうわたしより背が高くなったからもらえないわ」

「エレナ様が小さいせいでお菓子がもらえなくってガッカリです」

「これ、ユーゴ。お嬢様になんて事言うんだ」


 ユーゴはノヴァからゲンコツをくらう。


「いいのよノヴァ。ユーゴはわたしの事を元気づけようとしてくれたのよ。それに子供達に配るお菓子はお祭りの天幕にも並んで食べ放題だもの、わざわざ並んで女神様からお菓子をもらいたがるのは十歳にもならないような小さな子供たちばかりよ。背が大きいのに女神様からもらいたがるのはユーゴくらいだもの」


 そうだわ。

 子供達のために女神様の格好をするだけなんだから気負う必要はない。


 少し気持ちが軽くなったわたしは目の前のソーセージに齧り付いた。

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