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27 エレナ、領地を案内する

 牧場には二人乗りの鞍を乗せた立派な芦毛の馬と、開閉式の幌がついた軽馬車が二台用意されていた。


 白に近いシルバーグレーの毛並みに黒い足元の馬は、お兄様の愛馬「くつしたちゃん」だ。

 おっとりとした性格で力持ちのくつしたちゃんは二人乗りしても嫌がらないから、よくお兄様が乗せてくれた。

 くつしたちゃんは領地の屋敷の厩にいるはずだから、お兄様がわざわざ呼び寄せたのね。


「お兄様! くつしたちゃんに乗せてくれるの⁈」

「エレナ。くつしたちゃんじゃなくてザビーだっていつも言ってるでしょ。それと、乗せるのはエレナじゃなくてアイラン様だよ」


 わたしは半目でふさふさの羽飾りついた帽子を被り完全武装したお兄様を見つめる。


 悔しいくらいにかっこいい。


 わたしのことを無視してお兄様はアイラン様に歩み寄る。


『アイラン様、春に生まれたばかりの仔羊や仔馬を見に行きましょう。まだまだ小さいから抱っこできますよ。動物を抱いたことはありますか?』

『ないわ。後宮に猫がいるけれど、わたしに唸ってばかりで可愛いくないもの』

香檸檬(ベルガモット)の匂いがするからかな? 僕は好きな香りだけど、肉食動物は柑橘の匂いが苦手なのが多いから』


 そう言ってお兄様は、アイラン様の髪をひとふさすくって自分の顔に近づけて笑う。

 アイラン様は耳まで真っ赤だ。十四歳の少女をどこまでたぶらかすつもりなんだろう……

 お兄様がアイラン様の手をひいて歩き出すのを、わたし達はついて行く。


『羊や馬の主食は草や果実だから、香檸檬(ベルガモット)の匂いは嫌がらないと思いますよ。ああ、むしろ果実だと間違われて食べられないように気をつけないと。ザビー。アイラン様に触らせてあげて』


 くつしたちゃん……じゃなくてザビーの前に立ったお兄様はアイラン様の手を取り馬体を撫でさせる。食べられないようになんてふざけたことを言われたからか、おずおずと触れる。

 くすぐったいのかザビーは身震いした。


 あぶない!


 驚いて転びそうになるアイラン様を受け止めたお兄様は、そのままアイラン様の手の上に自分の手をしっかりと重ねて、今度は馬体を力強く撫でる。


『ブラッシングが好きだから、しっかりと撫でた方が喜びますよ。ほら、温かいでしょう?』

『あ、熱いわ……』


 もう嫌だ。見てられない。

 いくらイケメンでも、やっぱりお兄様とは兄妹だもの。


 お兄様(イケメン)ユーゴ(美少年)とイチャイチャしてるのも、お兄様(イケメン)アイラン様(美少女)とイチャイチャしてるのも、とにかくお兄様が誰かとイチャイチャしてるシーンは、ムズムズしてモヤモヤして見てられない!


 そう思うのに、見たくないものをジッと見ちゃうのはなんでなんだろう……


「エレナはエリオットがしてることをどう思う?」


 わたしの隣に立っていた殿下に尋ねられる。お兄様たちに送る殿下の視線はそわそわしている。


 そうよね。問題を起こしたら大変だもの。


「やめたほうがいいと思うわ」

「……そうか。そろそろ用意された馬車に乗ろう。早くしないとエリオットのやつはアイラン様を連れてどこかに遠駆けにいってしまいそうだ」


 殿下は困ったように笑うとゆっくりと歩き出す。わたしの歩きやすい歩調で歩いてくださる殿下の気遣いに温かい気持ちになりながら馬車に向かった。




 二人乗りの二台の軽馬車は、ユーゴとランス様が運転することになり、わたしはユーゴの、殿下はランス様が運転する軽馬車に乗りこんだ。


 幌を開けると周りがよく見える。


 目の前の馬の上でアイラン様をちやほやしているお兄様を冷めた気持ちで見ていたけれど、子供の頃から弟のように思っていたユーゴと周りを気にせず話せるのは楽しい。

 ユーゴから領地のみんなが何をしてるか聞いたり、子供の頃の思い出話をしたりしていると、エレナの記憶がどんどん鮮明になってくる。


 風を切って走る軽馬車に乗っていたらモヤモヤした気持ちは霧散した。

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