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22 エレナ、お兄様の思惑に巻き込まれる

 結局、わたしは寝不足のまま通訳を行う羽目になった。


 昨晩アイラン様がおっしゃっていた様に今日の茶会は互いの国の特産品を売り込むプレゼンの場だ。

 この国の貴族達もイスファーンに色んなものを売り込みたいし、イスファーンの使者達もこちらに色んなものを売り込みたくてギラギラしてる。


 ちなみに我がトワイン領の特産品は農作物が中心だから、ワインやチーズくらいは輸出できるけど後は時間と輸送費をかけてわざわざ輸出しても赤字になりそうなものばかりだ。

 王都が近い地の利を活かして、新鮮なうちにとれたて野菜を王都に売りに行くので十分。

 そして多分うちの領地で一番お金になるのは馬なんだけど、馬は軍事力にも繋がるからおいそれと他国に輸出したりはしない。

 自領にメリットがない話だからお兄様は乗り気ではなくて、アイラン様をチヤホヤするのに忙しいふりをして貴族達の通訳をしてあげるつもりは全くないらしい。

 

 主催者として忙しくされているコーデリア様達は他の貴族達にわたしを紹介する様にせっつかれ、気を遣いながら橋渡しをしてくださる。

 紹介されたいろんな貴族達がイスファーンの使者達に通訳してほしいと媚びをうってくる。

 ……やっぱり、お兄様に騙された気がする。




『エレナ。きちんと紹介してる?』

『しております』


 通訳があらかた終わって疲れ果てたわたしがやっと椅子に座ると、アイラン様が殿下とお兄様の腕にまとわりついて登場してきた。


 イケメン×2に美少女。

 あ、後ろを歩くランス様とアイラン様の侍女も美しい。

 画面がまぶしい。

 モブも着飾った貴族ばかりだから、キラキラエフェクトで絵面がガチャガチャする。


『どう? イスファーンの品は』

『評判よろしいですよ』


 テーブルに置かれた金属加工品や陶芸品、毛織物などに宝飾品。

 デザインが異国情緒(エキゾチック)にあふれてるので、新しいものが好きな貴族には流行るだろうなって思う。


『エレナも何か気に入ったものがあればあげるわよ』


 アイラン様は茶会に飽きているのか、自分達が持ってきた品物の中からとりわけ絢爛豪華な宝飾品をわたしに飾り付け、鏡を差し出す。


 ……似合わない。


 自分でもそう思った途端、ブフッという笑い声が聞こえて振り返ると思い切り吹き出したお兄様と苦笑いの殿下がいた。


「ひどいわ」

「ごめんごめん。似合う似合う。可愛い可愛い」

「ちっとも心がこもってない」


『シリル殿下もエリオットもいかが?』


 そう言ってアイラン様は殿下とお兄様に毛糸で編まれた胴着(ジレ)を渡す。


 お兄様が受け取ったジレをわたしも覗き込む。

 茶系が二色と白の三色の糸で雪の結晶模様が編み込まれたジレは裏を見ると糸が三重に渡っていて空気をたっぷり含んで暖かそう。


 それにしても海を挟んで南に位置するイスファーンの特産品が毛糸の編み物だなんて不思議。


『素敵なジレ。手編みですか? 目が揃ってて均一だわ。素晴らしい職人を抱えていらっしゃるのね』

『あら、職人なんかいないわ。これは編み機で編んでるのよ。シケで漁に出れない時に漁師達が収入源を確保するために作ってるのよ。編み機で作るからコツさえ掴めば誰が作っても目が揃いやすいのよ。まぁでも、うちの国はあまり羊がいないから高級品になっちゃうのよね。冬も寒くないから需要も少ないし。でもよその国なら欲しがる国もあるでしょ?』


 わたしの質問にアイラン様は答える。


 たしかに漁師は漁の網の補修をするから編み物が上手で、フィッシャーマンニットなんて言われてるとか、聞いたことがある。

 ……あれ? これってエレナの記憶? 恵玲奈の記憶?

 それに編み機を使うなら網の補修は関係ないような?

 っていうか編み機? 織り機は領地でも使ってるけど編み機?

 それにイスファーンは一年中温暖な気温で雪なんて降らないはず。

 雪の結晶模様って……


『アイラン様! よければ王都観光は取りやめて、うちの領地の祭りに来ませんか?』


 私が黙って考え込んでいると、お兄様がいきなりアイラン様の手を取りお祭りに誘っている。


「えっ? お兄様急に何を言ってるの?」

「ほら、うちにはいっぱい羊がいるじゃない。毎年使い道に困るほど羊毛が余るのをイスファーンに輸出するとか、そのなんだっけ、編み機? が輸入できる様なものなら、農閑期に毛糸でジレ作って北の方に売りつけようよ。オーウェンの領地は北の国境近くだし、僕がうまいこと取り入るよ」


 お兄様の思いつきに、ピンとくる。

 お兄様が大好きな金儲けのチャンスだ。


「それに、北の方の国に輸出してもいいと思うんだよね! ほら、北の街道も整備しないといけないのに利権争いで南の街道ばかり予算持っていかれて南ばかり栄えてるじゃない。交易が活発になれば街道整備もやりやすくなるし。父上ってば国土開発に携わる役職に着いているのに、治水事業ばかりに夢中なんだもの。せっかくうちの領地に通る街道も権力をかさに着て国の予算を引っ張って整備すればいいのにもったいない。……っていまはそれは置いといて、とにかくうちで有り余ってる羊毛を有効に活用するためにもイスファーンの使者に見てもらわないと!」

「そうね、羊毛がいっぱいあるのに、領地だけで使いきれなくて肥料にしちゃうものね。もちろん肥料も大切だけど、別に他にも肥料にできるものはたくさんあるし、少しでも羊毛が高く売れるならそれに越したことはないわ。しかも、もし編み機が手に入れば手編みと違って一定品質の物が量産できるから特産品として売りに出せるってことよね」

「でしょ! 任せてエレナ」


 お兄様は手に取っていたままのアイラン様の手を握りしめる。

 イスファーン語しかわからないアイラン様は捲し立てるようにわたしに話すお兄様の言っていることは理解できないのか戸惑っていた。


『これから始まる我が領地の祭りは麦の実りに感謝をし、夏から秋の作物の豊作を願い、女神に祈りを捧げます。活気があって毎年盛り上がるのですが、アイラン様の様な美しいお姫様がいらしたら領民達も皆喜びます。どうです? お祭りの視察しがてら羊を見に来ませんか?』


 腰をかがめてお兄様は戸惑っていたアイラン様の顔を上目遣いで覗き込む。

 相変わらずあざとい。

 アイラン様は近づいたお兄様の顔に赤面している。


『そっ、そこまで言うなら行ってあげるわ』

『ありがとうございます。祭りの期間中も私とエレナがアイラン様のそばでエスコートいたしますのでご安心ください』


 ……って、あれ?

 お祭り期間って、アイラン様の案内係から解放されるんじゃなかったっけ……

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