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3 エレナ隣国との茶会に誘われる

 ──お茶会なんて嫌だ!


 エレナはお茶会で愛想を振り撒くのが得意じゃない。

 むしろ苦手だ。お茶会にいい思い出なんてない。

 まぁ、そもそも記憶が曖昧ではあるけれど。

 代わりにわたしが愛想を振り撒いてあげたいところだけど、残念ながらわたしもコミュ障なのできっと惨憺たる結果が待ち受けてるとしか思えない。

 断固として拒否したい。


「嫌よ。出たくないわ。お兄様だってお茶会やパーティーのお誘い断るじゃない」

「僕はいいの」

「どうして!」

「僕がお茶会やパーティーに参加しない理由と、エレナが参加したくない理由は違うでしょ」

「お兄様がなんで参加しないかなんて知らないから、違うかどうかなんてわからないわ!」

「あれ? そうなの? 知ってると思った」


 そう言ってお兄様はキョトンとした顔をしてわたしを見つめた。


 しまった。エレナはお兄様が何故参加したくないのか知っていたのかな……


「……お兄様が参加したくない理由は許されて、なんでわたしが参加したくない理由は許されないの?」


 わたしはやっぱり納得がいかない。


「ああいう場はね、交友関係を広げて深めるためにあるんだよ。エレナは殿下と結婚するんでしょ? 未来の王妃様がいつまでも社交の場から逃げてていいと思う?」


 なんだか話をすり替えられた気がするけれど、そう言われてしまうと、お茶会から逃げちゃいけない事はわかる……


「でも、でも! なんで急にお茶会に参加しなくちゃいけないの⁈」

「今度参加するから、いまから心の準備してって言ってるんだよ。ほら、急じゃないでしょ?」

「でも十六歳になったからって焦らなくていいって、社交界デビューはまだ先でいいってお父様はおっしゃってたわ!」

「だから、夜会だとか舞踏会だとかじゃなくてお茶会だって!」

「でも……!」


 わたしとお兄様がヒートアップするのを見つめていた殿下の人差し指が、そっとわたしの唇に触れすぐ離れる。


「注目を浴びてるから声を抑えて」


 殿下の方を向くと、自分の口元で人差し指を立てて静かにするようなジェスチャーをしている。


 きゃあああぁ‼︎

 わたしの唇に触れた人差し指が殿下の口元に……!


「……ねぇエレナ。わたしの付き添いでついてきてくれるかな? 詳しい話はまた改めて説明するけど、今度シーワード領に隣国のイスファーン王国使者が来て、話し合いが行われるんだ。あちらからは王女も訪れるとのことだから、わたしも挨拶にいかなくてはいけない。エレナにもついてきてほしいんだけど。どう?」


 真っ赤になったわたしの顔を絶世のイケメンが覗き込んで、返事を待ってくださる。


「……殿下の付き添いが務まる様に、努力します……」


 うぅっ。行きたくないけど……

 行きたくないけど、殿下のお願いは断れない……


「よかったー! 殿下っ! エレナを説得してくださり、ありがとうございます!」


 お兄様が殿下の手を取り握りしめた時に、殿下が一瞬見せた嫌そうな顔に少し不安になる。

 お兄様の頼みだから、嫌々エレナを誘ったのかしら……


 お兄様は「って事で近々招待状が届くはずだから準備しておくようにね!」と宣言して、殿下達を連れて嵐のように立ち去ってしまった。


 わたしは深いため息をつく。


「お茶会なんて緊張するだけだから参加したくないのに……」


 参加すると言ったくせに、なかなか切り替えができないわたしを、成り行きを見守っていたスピカさんが見つめている。


「未来の王妃様。この魔法少女めが緊張しないように特別なおまじないをかけて差し上げましょう」


 スピカさんは芝居がかったような台詞回しでわたしの手を取り、手のひらに指を動かす。


 一はらい、二はらい。

 同じ動きを三回繰り返す。


 ……ん? あれっ? これってもしかして「人という字を三回書いて飲むやつ」じゃない?


 え?


「遠い異国のおまじないです。さぁ。手のひらに書いた文字を飲み込んでください」


 ストロベリーブロンドのツインテールを揺らして意味ありげにウィンクしたスピカさんに促されて、わたしがあわてて飲み込んだのは「人という文字」だったのか「スピカさんも転生者なの?」という疑問なのかわからなくなった。

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