2 エレナ隣国との茶会に誘われる
わたしは、いつも通り王立学園の食堂で、学友のスピカさんと昼食をとっていると、ザワザワと周りが急に騒がしくなった。
「あら。どうしたのかしら?」
わたしとスピカさんは談笑をやめて、ざわめきの先をみる。
「……!」
とんでもないイケメンたちがこちらに向かって歩いてくる。
殿下とお兄様だ!
殿下はとんでもなく見目麗しい絶世のイケメンで、淡い金色がサラサラと流れる髪の毛、見つめていると吸い込まれてしまいそうな深い湖の様な紺碧の瞳、それを縁取るまつげは顔に影を落とすほど長い。
背も高くて手足もすらっと長いけれど、広い肩幅は服を着ていてもちゃんと筋肉がついていることがわかる。
まぁ、本当に筋肉ついてるかなんて見た事ないから想像だけど。
見る人みんながうっとりする完全無欠な王子様。
そして殿下よりは少し線は細いけれど、肩までのびた柔らかそうな栗色の髪の毛をリボンで上品にまとめて、大きなエメラルドみたいな瞳を細めて優しそうに微笑む、王道の癒し系イケメンなお兄様。
あ、あともちろん殿下のそばにはいつものようにランス様もいる。
ランス様も亜麻色の長い前髪から見える怜悧そうな眼差しが涼やかでクール系のイケメンなんだけど、それよりもなによりもランス様は殿下の乳母兄で今は側近として仕えていらっしゃるなんて設定がたまらない。
それを言い出すと、殿下とお兄様の上下関係を超えた幼馴染の醸し出す気安い雰囲気もたまらない。
そんなたまらない三人が並んでいると漫画の見開きか、ゲームの特典スチルかってくらい絵力が強くて、背景に花とキラキラが見える。
普段殿下は昼間も公務だなんだと駆り出されて王立学園に設えた執務室に籠ることが多い。
食堂にいらっしゃる事なんてほとんどないから、久々の登場に、女子生徒達がキャーキャー言っているのが聞こえる。
眩しすぎるから、できれば遠くから見守りたい……
というか、目立つから近くにいるのは避けたい……
イケメンは遠くから眺めるに限る。
そんなわたしの願いは虚しく、あたりを見回していたお兄様に見つかってしまった。
目立つように手を振りながら殿下と近づいてくる。
もちろんそのあとをランス様もついてきているので、イケメン三人が向かう先にいるわたし達も、自然と注目の的になる。
「エレナ。用があるんだけどいい? スピカ嬢ごめんね、お話し中に邪魔して」
お兄様はわたしに有無を言わせず隣に座ろうとする。
「ゴホン」
わざとらしい咳払いの主である殿下は、座ろうとしたお兄様を制して、わたしの隣に座った。
最近、殿下は婚約者であるエレナと仲睦まじいアピールに躍起になっているご様子だ。
エレナは王立学園内でもイケメンで名高いお兄様とそっくりなはずなのに、童顔で背も低いため子供っぽい。
可愛いけれど、それは顔が可愛いのか、幼いのが可愛いくみえるのか、わたしにはもうわからない。
ただあまりに見た目が子供っぽくて殿下と釣り合いがとれていないのは事実なので、エレナになら勝てると踏んだご令嬢達から殿下は連日の様に猛烈にアピールされて迷惑そうにしていらっしゃる。
……多分、迷惑そうにしていると信じている。
だからエレナと仲睦まじいアピールをしてるんだと思うけど、殿下とエレナが並ぶとエレナの子供っぽさが目立つだけで逆効果だし、そもそも殿下が側にいるとドキドキしてしまってわたしの心臓がもたない。
そんなことをボーッと考えていると殿下に追いやられて斜向かいに座ったお兄様に手を掴まれる。
きゃっ! イケメンに手を握られちゃった!
「エレナ。今度お茶会にでるから心の準備しておいて」
「え?」
「参加しないって選択肢はないからね」
笑顔のお兄様にわたしは逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。