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49 魔法少女スピカは王子様と対峙する【サイドストーリー】

「聞いたよ。君は王太子妃付きの騎士になりたいからとトワイン侯爵令嬢に近づいたんだってね」


 気位ばかり高い王子が、王立学園(アカデミー)で自分の無能さが周りにバレないように、授業にも出ずに勝手に占拠した部屋で閉じこもっている。

 なんて噂されてる部屋まで呼び付けられたわたしは、目の前に座る絶世の美男子の冷たい笑顔に凍りつく。

 机には地図が広げられていてゲームで使うみたいな駒がいくつも置かれていた。


「君の名はスピカ。姓はない。出身はフォスター領内ニライ村の孤児院となっている。深淵の森にて拾われ本当の身元はわからないとのこと。一年前に深淵の森に現れた聖女発見者の一人。聖女を王都に移送する際に、人の嘘を見破る術をもつ事を理由に聖女の護衛として取り立てられ、王都の教会に居を移す。王立学園(アカデミー)へ特待生として通学することについては、聖女とフォスター公爵からの推薦となっている。現在は王立学園(アカデミー)寮に居住。ここまでで何か事実と異なることは?」


 話しながら、地図の上で駒を動かす。

 あの駒は私。

 視線を上げた先の王子はゆっくりと口角を上げる。

 微笑んでいるように見えるだけの表情からは、なんの感情も窺い知れない。

 見透かしたような青い目から目を逸らしたいのにわたしは身動きがとれなくなる。

 有無を言わせない威圧感は一朝一夕で身につくもんじゃない。

 そうだ。あのエレナ様がお慕いする王子が、無能だなんてありえない。


「……ありません」


 緊張で乾いた喉から声を振り絞る。

 魔法はかけるばかりで、かけられたことはない。

 かけられたらこんな感じなのかな。


「君と違って私は魔法とやらは使えない。魔法が使える君と対話するのは分が悪い。私は君に嘘をつけないようだからね」


 私の考えていることを知ってるかのように、タイミングよくそう言うと、王子は目を細める。


「わ、わた、わたくしも、王太子殿下お相手に嘘をつくなどという罪を犯すことはできません」

「おや。それは、君の(しゅ)に誓ってくれるのかな?」


 王子は感情のこもらない微笑みのまま、ガラスの立派な駒をいくつか地図に置く。


「国境近くの深淵の森には侵略の機を窺う北方の隣国(ファルファウラ)の間諜が潜んでいる。創世神と十二柱の神のためにあるはずの教会では、君を育てた教会をはじめ聖女信仰を推す派閥が急進している。フォスター公爵は軍部の中心的な存在だ。軍部はいま将軍である王弟公爵を旗印に以前西方の隣国(リズモンド)で起こったようなクーデターを我が国でも起こそうと画策している」


 どれもこれも断片的に街中で語られる噂話だ。

 胡散くさいと思っていた噂話も、王子が整理して話しただけで、にわかに真実味が増す。


「誰が君を送り込んだんだい? さて、君の(あるじ)は誰なのか教えてもらおうか」

「……わたくしの(あるじ)はエレナ様です」


 そう言ったと同時に、いつのまにか背後に回っていた王子の側近がわたしの首元にナイフを突きつける。

 ヒヤリとした金属の触感に身震いする。


「嘘をつかないのではなかったか? 君は教会の間諜なのだろう?」

「……教会なんかの間諜になるつもりはありません」


 王子はわたしの答えに、ナイフを離すように側近へ指示を出した。


 育ててくれた教会に恩義はあるけど、よくしてくれたのは育った孤児院だけだ。

 出生不明な上に魔法が使えるわたしは異端者扱いだった。

 村の祭司様はいつも中央から来た祭司達にわたしを捨てるように脅されていた。

 わたしを捨てようとしていたくせに、成長したわたしの魔法が使えると知った教会がわたしを間諜にしようとしていたのから逃すために、聖女様が王立学園(アカデミー)に通うように手を回してくださっただけだ。


「では、なぜ侍女まがいなことまでして、王太子妃の護衛になりたがる」


 ゆっくりと立ち上がり目の前に立った王子の冷たい瞳は突きつけられていたナイフよりも鋭い。


「悪意あるものは、この場で排さねばならぬ」


 冷たく言い放つ王子は、噂みたいな愚かな王子ではないみたいだけど……

 邪魔な物は平気で消そうとする冷酷な王子だ。

 エレナ様に何をするかわからない。


「エレナ様への悪意なんてありません! エレナ様は悪口を言われたわたしのために立ち向かってくださる、正義感の強いお方です。わたしは王太子妃になるからエレナ様に近づいたんじゃありません! エレナ様のお近くにいたいだけです」


 王室への不満はあってもエレナ様への悪意なんてもちろんない。

 エレナ様をお守りできるのはわたしだけだ。


「嘘はないのか」

「ありません」


 わたしは騎士の礼をし、王子を見つめた。


「いいか。エレナは君のことを大切な友人だと思い信頼している。それを裏切るようなことをしたらどうなるかわかっているな? エレナを泣かせるようなことをするな。私はエレナを傷つける者は何人たりとも許しはしない。君を信じたわけではないからな。君の一挙手一投足は全て私の監視下の元にある」


 感情を押し殺す話し方は怒りを秘め、わたしを見つめ返す冷酷な王子の瞳には、どろりとした執念がまとう。


 噂なんて、当てにならない。

 小太りで醜女の侯爵令嬢も、感情のない無能な王子もいない。

 エレナ様がかりそめの婚約者で、数年後に捨てられるだなんて、とんでもなかった。

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