38 エレナとツンデレ公爵令嬢と誓いのイヤリング
ダスティン様の勘違いが判明して、場がすっかりと和んだ。
「とりあえず、コーデリア嬢にはイヤリングを作り直して贈るんだな」
オーウェン様はダスティン様にそう告げるとニヤニヤしている。
私だってニヤニヤしたい。
「早急に対処いたします」
ダスティン様が生真面目に答え顔を上げると、なぜかまたすぐに俯く。顔は曇っていた。
「コーデリア様に黒い石のついたイヤリングを贈ってしまったら、恋人気取りなどと思われて拒絶されないでしょうか。そもそもお贈りするのをやめた方がいいのでは……」
「そのイヤリング贈りっぱなしよりはマシだろ」
「そうだよね。これはちょっと僕らも勘違いするくらい意味がわからなかったもんね」
お兄様はそう言ってハンカチに置かれたイヤリングを手に取る。
「まだ黒い石のイヤリングの方が意味がわかるだけいいんじゃないか。喜ぶかは別として」
オーウェン様もお兄様も励ましてるんだか貶してるんだかわからない励ましの声をかける。
二人ともコーデリア様がダスティン様の事を大好きな事は気が付いていない。
──コーデリア様ってば、めちゃくちゃダスティン様のこと大好きですから! 恋人気取りされたいはずです! だから可及的速やかに黒の石がついたイヤリングを送ってください!
そう伝えて差し上げたいけれど、誰も気が付いていないコーデリア様の恋心をわたしが勝手に伝えるわけにはいかない。
「コーデリア様にこちらを預かった時に『このイヤリングは受け取れないからお返しする』とおっしゃってました。他のイヤリングでしたら受け取っていただけると思います」
「いや……しかし……」
ダスティン様はあーだこーだと言い訳を並べ始めて、新しいイヤリングを贈っていいのか自問自答し始める。
自覚してない時はクソ甘い事を平然とやってのけるのに、意識するとヘタれるあたり、自覚なし溺愛っぷりが酷い。
遠巻きに見てる分には萌えるけど、巻き込まれるとジレジレすぎてイライラする。
「コーデリア嬢はダスティンに好意を抱いているのだから、コーデリア嬢に贈りなおせばよいだろう。もうこの話は終わりにしろ。わたしはやらねばならない仕事がある」
書類を眺めながら、さも興味がなさそうに、殿下が言い放つ。
「さっさと話を終わらせたいからって適当な事言いやがって! あんたにとっては愛だの恋だのはくだらん話かもしれないが、ダスティンは真剣に悩んでんだ!」
「適当? 先程までのオーウェンのアドバイスの方が冷やかすだけでよほど適当だろう」
「なんだと!」
「冷やかしでなければ一体どういうつもりだ。あれで励ましているつもりか? とんだ捻くれ者だな。そんな事でお前に領民はついてくるのか」
「は! 上っ面だけ取り繕って耳障りのいい綺麗事ばかり言ってる、人の心を持ちあわせてない王子様よりはついてくるさ!」
殿下の冷静な口調と冷ややかな眼差し、オーウェン様の熱を帯びた口調と血走り熱のある眼差しで繰り広げられる口論が、さっきまで恋バナで盛り上がっていた執務室内の空気を一変させ重苦しくする。
イケメン同士の睨み合いって絵になるな。
ジロジロみると口元が緩みそうだったので、お兄様の腕の中に飛び込みチラリと様子を伺う。
「ちょっと、殿下もオーウェンも落ち着いて! エレナが怖がってるでしょ!」
お兄様がわたしを強く抱きしめる。わたしが怖がってると思ったのね。
お兄様優しい。
「あぁ。エレナ嬢すまないね。怖がらせるつもりはなかったのだ。そんな怯えた顔しないで笑顔を見せておくれ」
そういうと殿下はわたしにいつもの微笑みを向ける。
わたしも慌てて微笑むと、殿下は満足そうに頷く。
「そういうところが上っ面ばかり取り繕ってるっていっているんだ!」
「オーウェンがそんなに大きい声を出してばかりだから、私の婚約者が怯えてしまったのを心配しただけではないか」
「あーあー! そうやって上っ面だけのおままごと相手と上っ面の会話ばっかりしやがって!」
「だから、エレナが怖がってるのに巻き込まないでってば!」
今度はお兄様も加わってイケメン三人で睨み合いが始まった。




