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33 エレナと悲劇の公爵令嬢

「あの……お兄様。コーデリア様ってダスティン様といつもあんな感じなんですか?」


 こっそりとお兄様に声をかける。


「……そうなんだよ。コーデリア様は僕らに対しては気に食わなくても侮蔑の眼差しを向けるくらいで、叫んで怒ったりだなんてしないのに、ダスティンに対してはいっつも叫んで怒ってて、あたりがきついんだよね」

「勝手に親が決めた婚約者が不満なんだか知らないけどありゃヒステリーだな。殿下の婚約者候補だった頃は『貴族の娘たるもの結婚なんて領地の発展にどれだけ利があるかが重要なのよ』なんて偉そうに講釈垂れてたくせに」


 エリオットお兄様とオーウェン様は小声でそういうと、嫌そうな顔をする。


 そうか。モテモテなお兄様達には自分のことを好きだとアピールする女性ばかりがたくさん集まるから、コーデリア様の様な表現しかできない女性がいる事に思いが至らないらしい。


 コーデリア様の語気がどんどん強くなる。


「そうね! でももう王太子殿下には婚約者がいるから、そしたらわたくしは同じ公爵位のオーウェンの元に嫁がされるかもしれないわ! そしたら貴方も誓いなんて守れやしないわね! なんて無様な誓いなのかしら!」

「もし貴女がオーウェン様の元に嫁ぐのであれば騎士団に入隊した後はフォスター公爵家の指揮する国境警備隊の任につく様に志願いたしましょう。お任せください」


 勝手に名前を出されてますます嫌そうな顔をしているオーウェン様を尻目に、わたしは確信を持ってニヤニヤする。


 ──自覚なし溺愛系騎士様×ツンデレ美人公爵令嬢


 やばい! 萌える! 尊すぎる!

 このまま、くっつくまでのドタバタを特等席で眺めたい!

 なんならくっついてからのイチャコラも特等席で見たい!


 「あの! コーデリア様わたしと二人きりでお話いたしませんか!」


 興奮してわたしがそう口走ると、怪訝そうな美男美女に一斉に見つめられた。



 ***



「わたくしと二人きりで話したいなんてどういうおつもり?」


 殿下が特別にと、わたしとコーデリア様を残して執務室を貸してくださった。

 わたしはさっきまで座っていた席から立ち上がり、コーデリア様の向かいに座りなおす。


「あの……」

「何かしら」


 さっきまでダスティン様に向かって真っ赤になってツンツンしていたコーデリア様に、ツンデレ美人公爵令嬢、尊い! と興奮していたけれど……

 いざ面と向かって対峙すると圧倒的な美しさに緊張する。

 いつもの冷静さを取り戻したコーデリア様は、まるで女神の彫刻のようだった。


 無理。

 コーデリア様にダスティン様の事好きですよね? なんてストレートに聞けない。


 とりあえず他の話題で盛り上げてからじゃないと。


 えっと、なんか、他の話題は……


 あっそうだ!

 コーデリア様に確認したい事があった。


「あの。コーデリア様を慕われているご令嬢方に、わたしのことお話していただいたのですよね。彼女たちの態度が変わってきたので……」


 そう、最近徐々に悪口は減って静観に切り替わってきたんだけど、コーデリア様の取り巻きだと思われるご令嬢達が一番早くに静観に切り替えていた。


「あの子達と話す機会があったから『未来のシーワード公爵夫人と王太子妃の二人と親交を深めればいいんじゃなくて』と伝えただけよ」

「わたしのためにありがとうございます」

「別に貴女のためではないわ。ずっとわたくしが王太子妃になると信じて生きてきたあの子達が、今から貴女と親しくするべきなのか否か戸惑っていたので少し話をしただけよ」


 コーデリア様はチラリとわたしを見たあと、プイッと顔をそむける。


「公爵夫人と親交が深い間柄だっていうのも、社交界で箔はつきますわ。それに、他国との交易の窓口はうちの領地ですから、あの子達の親も自領の品で他国と取引をするには未来のシーワード公爵夫人と自分の娘が仲がいいのは悪くはないと考えたのでしょう。あの子達が貴女と親しくしようとするかどうはわたくしには関係のないことよ」


 髪の毛をかきあげたコーデリア様はわたしにもツンデレの片鱗を見せる。

 よかった。ツンデレだと思えば話もしやすい。


「あの、コーデリア様がこの作戦に乗り気ではないのって……」

「あら? わたくしが乗り気になったら貴女も都合が悪いんじゃなくて? 先ほども言いましたけど、叔父様が失脚したらわたしが急いで跡を継ぐ必要がなくなるわ。当初の予定通りわたしの小さな妹に公爵の器にふさわしい婿をとらせて領主教育をする事になるでしょう。そうしたら跡を継ぐ必要のなくなったわたくしが、お父様の権力で再び王太子殿下の婚約者候補の座に収まる事だって有り得るわ。そうなったらお困りになるのは貴女じゃなくて?」


 わたしの発言を遮りコーデリア様は捲し立てると、いつも通り人差し指を顎に当てて小首を傾げた。


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