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32 エレナと悲劇の公爵令嬢

「結構ですわ」


 そう言い放ったコーデリア様は射る様な眼差しでわたしたちをジロリと見回した。

 美人に睨まれるとめっちゃ怖い。

 テーブルの上に置かれた山積みの書類は存在を確認しただけで手も触れようとしない。




 ──わたしが殿下にお願いしてから一ヶ月たった。


 殿下はお兄様をはじめとした将来の側近候補の皆さまを、シーワード子爵と関わりの深そうな貴族や商人が集まるパーティーに潜入させたり、シーワード領のお屋敷にコーデリア様の婚約者であるダスティン様を送り込んだり、殿下もご自身で集めたシーワード領の財務表などに目を通して、シーワード子爵の不正の証拠を積み上げてきた。


 普段はパーティーには極力参加しない方針のお兄様が頻繁に参加されるものだから、うちの使用人達は「とうとうエリオット様が結婚相手を探す気になった」と大喜びしていた。

 お母様とメリーなんて手を取り合って泣いていたけど、多分この件が落ち着いたら、いつも通り「パーティーなんて参加すんの面倒臭い」と言って憚らないお兄様に戻る事が分かっているわたしは、喜んでいる屋敷のみんなに申し訳なくてずっと胃がキリキリしていた。


 わたしが何の根拠もなく、あると思い込んだチート能力でシーワード領の家督争いに決着をつける! と息巻いたくせに、結局何もしないまま、殿下達がすべてお膳立てをしてくれていた。


 後は、王室主催のパーティーとかで、国王陛下や貴族院の方々がいらっしゃるときに糾弾するだけ。


 という事で、今日は王立学園(アカデミー)内の殿下の執務室でコーデリア様に秘密裏に動いていた内容をお伝えしたら、こんな状況になってしまった。


 コーデリア様に睨まれて萎縮するお兄様とわたし、不機嫌そうなオーウェン様に、感情が見えないけど負のオーラだけはひしひしと伝わる殿下とランス様。


 沈黙が重い……


 そんな中、真剣な眼差しで、コーデリア様の真向いに座っていたダスティン様が口を開く。


「コーデリア様。貴女の愛するシーワード領を救うために皆で協力しここまで漕ぎつけたのです。作戦決行の許可を」


 殿下はコーデリア様ではなくシーワード公爵に伝えるなんておっしゃっていた。

 でも、それだときっと公爵に秘密裏に処理されて、殿下がコーデリア様のために身を粉にして働いた事がご本人に伝わらない。

 王室主催のパーティーで糾弾するのは、殿下とコーデリア様が復縁するための大切なイベントだと思う。

 それなのに、殿下ったらダスティン様に言わせるばかりで、ご自身の口では何もおっしゃらない。

 これじゃあせっかくコーデリア様にお伝えしても殿下の功績は伝わらないじゃない!


 じっと殿下を見つめているとわたしの視線に気がついてスッと目を逸らす。

 もう!


「ダスティン。貴方までこんなくだらない事に首を突っ込んでいたの? 貴方には何のメリットもないのではありませんこと?」


 ダスティン様以外は話にならないと踏んだのか、コーデリア様はダスティン様にターゲットを定めて口撃を強める。


「私のメリットなど関係ありません。貴女のためになる事なら、私はなんでもいたします」


 漆黒の短髪に、少し深緑が入った黒い瞳が涼やかで精悍な顔立ちで、体躯もがっしりとしたダスティン様。

 コーデリア様の婚約者というよりは、まるでお姫様にお仕えしている騎士のような雰囲気がある。


「まぁ。なんでも? では貴方はわたくしが『いますぐ死ね』といえば死ぬのかしら」

「貴女をお護りするために死なねばならぬのなら死ぬ覚悟はあります。ですが、貴女の命令でいま死んでしまうとこの先貴女を護る事が出来ません。そんな命令はしないで頂きたい」

「なっ! 口ごたえするおつもり?」

「そんなつもりはございません。私の誓いと嘆願です」


 ダスティン様は真剣な表情を何一つ崩さない。


「……だいたい、叔父様を失脚させたらわたくしが家督を継ぐ必要はなくなって、貴方との婚約は解消するかもしれませんわよ? 宰相まで務め上げられたお父様のことですから王室に口出しして、再びわたくしを王太子殿下の婚約者の座に納めようとしかねませんわ! みすみす公爵の座を手放すなんて、頭のおかしな男のする事だわ!」

「もともと公爵になるつもりは私にはありません。私は貴女と婚約した時に、女主人として領地を納める貴女に夫として仕えようと心の中で誓ったのです。この婚約がなくなり貴女がもし元の予定通り王太子妃殿下になられたとしたら、その時は私も元の予定通り武官となり王室の騎士団に入りますから、立場は変われども貴女にお仕えする事実は変わりません。貴女にお仕えする誓いを果たし、いつでもお護りしますのでご安心ください」


 捲し立てるコーデリア様と、毅然としながらちょっと想定よりズレた回答ばかりなダスティン様の会話を聞いていたわたしは、ある可能性に思い当たった。

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