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49 エレナ、殿下とお忍びで視察する

 王都は殿下たち王族が住み役人たちが働く王宮を中心にした新市街と、はるか昔……神話の時代に山城が築かれ今も砦が象徴的な古城が建つ旧市街で形成されている。

 王立学園(アカデミー)は王宮の近くに位置し、図書館や劇場、博物館に美術館、植物園などアカデミックな施設が並ぶ。

 少し行くと大通りを挟んで繁華街が広がり大通りから奥まったところには職人街に続く。大通り沿いの繁華街を抜けるとお屋敷街が広がっている。

 視察のために乗り合い馬車に偽装した車内から見る風景はいつもと同じだけど、今日はその景色の中に自分がこの足で立つんだ。


「では、よろしいでしょうか」


 同乗しているリリィさんが最終確認とばかりに話し出す。


「すでにこの通りで有力な商店の会長には王太子殿下が視察をしたいがあまり騒ぎにならないようしてほしい旨、話を通してあります。今日はまず会長の経営する店を中心に視察をし、民の反応を踏まえて少しずつ訪問する場所を考えていきましょう」

「ねぇ、リリィさん。それではあまり視察になっていないと思うわ。視察に来ると聞いて取り繕われた生活を見ても仕方ないのではない?」

「え? エレナ様。視察という名のデートですよ」


 リリィさんが目を丸くする。


「……それは伺ったけれど、あくまでも視察がメインじゃないの?」


 わたしも目を丸くする。


「もちろん視察はしますよ……。そうですね。今回の視察に関しては民の暮らしを王太子殿下が気にかけていることを皆に周知することに重きを置く内容になっております。そう、まずは王太子殿下の人柄を知らしめ、民に心を寄せ共に歩む王太子殿下であるということを理解させた上で王太子殿下の視察が続けば、民も心を開き取り繕うことせず自分たちのありのままを見せるというものです」

「そうかしら」

「ええ。そうです。トワイン侯爵家が領地の民に慕われているのは代々領主が民のために心を砕いているからではありませんか? 没落寸前となるほどの天災に遭遇し不作に喘いだ際も民から税をむしり取るようなことはせず身銭をきって施しをし、水路や灌漑を整備し再び不作に喘ぐことのないよう努力を重ね、収穫が増えてからも領主の蓄えを増やすことは後回しにしてトワイン領の伝統祭で民に還元をする。そんなトワイン侯爵家で育まれたエレナ様であれば為政者が民に向ける思いを行動で示すことの大切さをご存知のはずです」

「そっそうね」

「はい。そうです。おっしゃる通りです」


 わたしは何もおっしゃってない。頷いただけだ。

 だけど、わたしの手をしっかりと握ったリリィさんの有無を言わせる気のない態度に受け入れざるを得なくなる。


「……わかったわ。今日はその話を通してある会長のお店に行くのね。じゃあこれから向かうのは王都で一番影響力のあるジェームズ商会かしら? ジェームズ商会はメアリさんの婚家でしょう? メアリさんはご一緒じゃなくていいの?」


 わたしと殿下のほかには、リリィさんとランス様、それにステファン様が同行している。あまり大所帯だと目立ち過ぎてしまうとの事だった。

 とはいえ馬車から少し離れたところには護衛として見慣れた顔がちらほらいる。

 ストロベリーブロンドのツインテールはスピカさんね。赤毛も見えるけど、あそこに立っているのはメアリさんじゃなくて弟のジェレミー様だ。

 メアリさんに殿下が王都を視察するなんていったら、取り入って王室御用達を取り付けるチャンスとばかりに眼鏡を光らせてついて来そうなのに。

 

「今回はメアリさんにはお留守番いただくことになっています。ジェームズ商会がもちろん王都での影響力はあるのですが、メアリさんの義父君である商会長は男爵位を授爵しトワイン侯爵家の抱える領地の管理者になられていますので……」


 言いづらそうなリリィさんの顔を見て話を察する。

 つまりはジェームズ商会を利用してアピールしても、トワイン侯爵家の差金に見えてしまうってことね。


「メアリ夫人にはまた次の機会に同行をお願いしよう。さあ、エレナ。行こう」


 考え事をしていたわたしに微笑みかけた殿下は馬車から降りようと手を差し出した。


「あくまで騒ぎにならぬようお忍びという態ですから、エスコートはお控え願います」


 慌てた様子のステファン様にわたしは伸ばしかけてた手を引っ込める。


「お名前を呼ぶのも極力避けていただければと存じます」


 殿下は返事はせずに少しムッとした顔をする。


「その、うちの妻もなんともうしますか巷では有名人でして、名前を耳にしただけで振り返り視線を送る輩も少なくありません。殿下の名やエレナ様の名が聞こえれば注目が集まる可能性がありますので」

「仕方ない。こちらから目立つようなことをしては混乱が起きる可能性があるからな」


 私たちは馬車を降りた。

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