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27 エレナと社交界の毒花令嬢

 ネリーネ様はすごく派手だけど派手だからこそ? 宝飾品や衣装に造詣が深い方だった。


 投資話はトントン拍子に進み「手芸に精通されているエレナ様がお考えになった事業なら」なんて言われて、思ってもみない金額を支援していただけることになった。


 水着のカギ編みを褒められて調子に乗ったわたしは、自分が今使ってる刺繍入りのハンカチを見せたり髪につけたシャトルレースのリボンを見せる。

 ネリーネ様はわたしのこだわりを一つ一つ感嘆しながら聞いてくれる。

 話してみればツンデレなコーデリア様やお姫様なアイラン様よりも全然話しやすい。見た目の派手さにみんな騙されてるのね。

 それに派手ではあるけれど、ドレスの生地も刺繍やレースも全てが一級品だわ。

 わたしは繊細な刺繍やレースをうっとりと見つめる。


 もちろんエレナの服は侯爵家のご令嬢だから良いものばかりだけど、宝石を散りばめたりしている物はない。

 エレナが持っている中で一番手が込んでいる服は、殿下に贈っていただいたドレスだ。

 

 ドレスの意匠を思い出す。

 手触りのいい白い絹生地に金糸や銀糸で丁寧に施された刺繍。たっぷりのレースやフリル。

 白を基調としながらもブルーリボンのパイピングが、デザインを引き締めている。


 ──まるで幸せな花嫁が着るウェディングドレス。


 殿下の誕生日を祝うパーティで着る予定のドレスだけど、きっと悪評高いエレナは着ることはない。


 わたしはため息をつき、ネリーネ様を見上げる。


「ネリーネ様のドレスの刺繍は本当に見事な手仕事だわ。この一着を作るのに何人の針子が関わったのかしら。さすが国内でも有数の資金力があるデスティモナ家ね。こんなに優秀な針子を何人も抱えた服飾店(メゾン)とお付き合いされているなんて」

「あら新市街のメゾン・ド・リュクレールに依頼したものですわ。ご存知ではございませんの? 王都で最高峰のオートクチュール専門の服飾店(メゾン)といえばリュクレールですから、名門トワイン侯爵家のエレナ様ならご存知かと思っておりましたわ」

「まぁ! リュクレールのドレスなのね! 名前は聞いたことがあるわ。でも残念ながら我が家は昔から、自分達に使うお金があるなら領民に使うのが信念なもので、オートクチュールの服飾店(メゾン)とはあまり縁がなくて行ったことがないの」


 服飾店(メゾン)の話題に花が咲く。

 気分が落ち込んでいても、お洒落の話で盛り上がるのは楽しい。


「随分と楽しそうだね」

「きゃ! お兄様ったら驚かせないで!」


 急にお兄様が現れて、わたしを後ろから抱きすくめる。

 突然話に割り込んできたお兄様にネリーネ様は怪訝そうな視線を向けた。


 今日は海向かいの隣国(イスファーン)との交易について両国で決議をとる。

 その決議の場に殿下と参加していたはずのお兄様が戻ってきたということは……


 今日の日のために頑張ってきた役人達が期待でうずうずしている。


「どうしたの? みんなして僕のこと見て」


 お兄様はわかっているくせにはぐらかす。


「エリオット。何している。もったいぶらずに伝えたらどうだ」

「やだなぁ。みんな僕よりも殿下から直接聞きたいはずだよ」


 真っ白な正装に瑠璃色のマントを羽織った殿下が、お兄様より少し遅れて戻っていた。

 諌められて肩をすくめたお兄様は、わたしを解放して拍手を始める。

 釣られてみんな拍手をした。


「本日決議案は採択され、海向かいの隣国(イスファーン)との交易について国家間の交渉は終焉を迎えた。みなの尽力によるものだと考えている。感謝する。後は貴族院を通じて領主達への通達ですべき仕事は終わる。もう少しだけ力を貸してくれ」


 拍手に応え殿下はゆっくりと言葉を紡ぐ。部屋中のみんなが控えめな歓声を上げた。




 部屋の中が、にわかに浮き足立つ。

 殿下はいつもの執務机に戻り、みんなのペンを走らせる音は楽しげなリズムを刻む。


「わ。美味しそうなクッキーだね」

「ネリーネ様が差し入れにお持ちくださったのよ」

「休憩時間にでもと思ってお持ちいたしましたの。トワイン侯爵家のご令息様はいま召し上がります?」


 ネリーネ様はそう言うと部屋の隅で控えていた侍女に声をかけ給仕を指示する。

 その隙にお兄様の顔が近づく。

 相変わらずイケメンだ。


「……ねえ、投資話はどうなったの」

「……してくださることになったわ」


 わたしの返事にお兄様はご満悦だ。


「……お兄様がご一緒してくださると思ってたのに、一人で頑張ったのよ?」


 お兄様はキョトンと目を丸くする。


「……でも、僕が入らずに二人で話した方が二人とも仲良くなれると思ったんだけど。仲良くなれたでしょ?」


 どこまでわかってるのかわからないお兄様はそういうと、不敵な笑みを浮かべた。

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