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8 エレナともう一人の転生者

「ええっ! エレナ様が転生者なんですか⁈ えっと、エレナ様はどこから? わたしは二十一世紀の日本からなんですけど」

「……わたしの前世も日本人だったわ」

「本当⁈」


 わたしはメアリさんに人差し指を立てて小さな声で話すようにとジェスチャーをする。


「あっ……失礼しました。それにしても、全然気がつかなかったです。いやぁ。エリオット様があまりにパワーバランスぶち壊して人生謳歌してらっしゃるし、キャラ強すぎたから盲点でした。言われてみればエレナ様はこの世界の貴族と比べると異質ですもんね。妹のエレナ様が転生者だからエリオット様に影響が及んでるんですね」


 わたしよりも明らかに異質なメアリさんから異質と言われると、ちょっと釈然としない気持ちになる。

 じっと見つめていると気まずそうにメアリさんは肩をすくめた。


「まあ、うちの双子の弟(ジェレミー)は平凡で間抜けな男なので、転生者が兄弟にいたくらいじゃそんな影響もないって先入観があったのかも」

「そういえば双子なのよね? ジェレミー様も日本からの転生者なの?」


 わたしの疑問にメアリさんは腕を組んで考え込む。


「……うーん。ジェレミーの前世は日本人ではないと思います。かまをかけても通じないんで。ただ個人的にはジェレミーの前世は犬か、犬の獣人だと思ってますけど」

「獣人がいるの⁈」


 大ヒントだわ! 獣人もいる世界に異世界転生したのなら、少しは転生先の作品が絞れる気がする!


「あ、いや、その、わたしが日本で死んでこの世界に転生したくらいだから、ジェレミーが獣人のいる世界からこの世界に転生してもおかしくないかなって思ってるってだけです。獣人は聞いたことないですね。ジェレミーは平凡で間抜けだけど、異様なまでに鼻が効いて、馬鹿みたいに力が強いんです」


 なんだ。この世界に獣人はいないのか。

 それに、異様なまでに鼻が効いて馬鹿みたいに力が強いなら、もはやそれは平凡ではないんじゃない?

 期待が外れたわたしは、ツッコミたいのを我慢する。


「しかもお気に入りへの執着は強いし、ああ見えて上下関係しっかり守って忠誠心強いし。あいつの前世は赤毛の犬なんです。エレナ様もそう思わないですか?」


 メアリさんはわたしが同じ日本人の転生者だと知ったからか、今まで以上にいたずらっ子みたいに親しげに話しかける。

 周りから見ればわたしたちは、仲の良い女官見習いの同僚にしか見えないはず。


「エレナ様はいつ転生者だって気がつかれたんですか?」

「今年の春よ」

「今年の春って……もしかしてあの事件がきっかけで……」


 そう言って顔を曇らせたメアリさんを見て、エレナが階段から落ちた事はわたしが思っている以上に噂になっていることを理解する。

 それに事故ではなく事件として扱われているってことも。


 わたしはもう気がついている。

 エレナと殿下の婚約は周りから批判されていて、市井ではネガティブな噂ばかりされていたことを。

 ただあの時の記憶はやっぱり思い出せないままだから、その噂で精神的に追い詰められて階段から落ちてしまったのか、ただ不注意で階段から落ちてしまっただけなのか、それはわからない。


「確かに階段から落ちた弾みで色々なことを思い出したけど、あれは事故でしかないわ」


 わたしの断言に、メアリさんが「それでエレナ様には、どうしようもない噂話が耳に入らないようになってるんですね」と呟く。


「メアリさんはいつ自分が転生者だと気がつかれたの?」


 重たい雰囲気に耐えきれずに、笑顔でメアリさんに話しかける。


「赤ちゃんの頃です。死んだって思って目が覚めたら赤ちゃんでした」

「そんな前から……ねえ、メアリさんはこの世界がなんの物語の世界かわかっているの?」

「なんのことですか?」


 わたしよりも前からこの世界が異世界だってわかってるメアリさんは、きっとこの世界の真実に気がついているはず。

 物語の題名も、内容も、登場人物も。そして話がどれくらい進んでいるかも。


 メアリさんはわざとらしく小首を傾げたままだ。

 そりゃそうよね。面と向かって破滅する悪役令嬢ですとは言いづらいものね。


「いいの。わたしに気を遣わないで。わたしは殿下の婚約者だもの、悪役令嬢なんでしょう? 子供みたいな見た目の名ばかり侯爵家の娘なんて役不足のくせに、小さな頃から兄のように振る舞ってくださる殿下のことが大好きで、妹みたいに可愛がってもらえるだけじゃ満足もせずに婚約者の座に執着しているのよ。本物のヒロインが現れて捨てられるのはわかっているわ。せめて穏便に捨てられたいじゃない。なんの物語かわかれば破滅フラグを回避することは可能だと思うの」

「えっと……」

「もしかして、もう手遅れなの?」


 わたしの質問にメアリさんは忙しなく瞬きをする。


「あの、この世界は物語の中なんですか?」

「え?」


 今度はわたしが忙しなく瞬きをする番だった。

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