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47 エレナの膝枕

「わたしだって殿下のおそばにいたいと思っているのよ」

「エレナ様も、ようやくわかってくださったのですね」


 頭をあげたウェードは、感極まった様子で泣きそうになっていた。


「ウェード。期待しちゃダメだよ。エレナはちっともわかってないから」


 お兄様はようやくアイラン様の膝の上から起き上がると、偉そうにそう言い放つ。


「お兄様ったら、なんてことおっしゃるの! ちゃんとわかってるわ!」


 わたしが声を上げると殿下の頭がモゾモゾと動く。起こしちゃったかしら。

 覗き込むと、まだ気持ちよさそうに眠っていた。

 ゆっくりと頭を撫でる。


「まだ、王宮にイスファーン語の翻訳ができる役人が少ないのでしょう? わたしもお兄様と一緒に王宮に出仕して翻訳のお手伝いをするわ」


 わたしの決意に、お兄様とウェードがため息をついた。


 え? どうしよう。翻訳の手伝いくらいじゃ許されないの?

 やっぱり、わたしが騒ぎを大きくしすぎたから?

 でも、わたしが殿下のお役に立てることって、他に何かあるかしら。

 わたしは殿下の仕事を増やすことしかしてなくて、殿下がどんな仕事をされてるか正直よくわからない。

 書類にサインをするだけの仕事じゃないことくらいは、わかるんだけど。


「ほらね。エレナは全くもってわかってないでしょ? ウェードも諦めなよ」

「ひどいわ。お兄様は殿下のお近くで役人見習いとして翻訳のお仕事されて、そのまま王宮に出仕も続けられるんでしょ? わたしもご一緒すればお役に立てると思うわ。ほら、文書係もあの感じの悪い役人からハロルド様に変わったでしょ? ハロルド様はわたしと仲良くしてくれるって言ったから、翻訳だけじゃなくて書類を運ぶのだって手伝えるわ」


 ウェードに向かってわたしのことを下げる発言をしたお兄様に、不満をぶつける。

 社交が下手なエレナだって、多少は人付き合いができるんだ。


「ああ、もう。口が裂けても、殿下の前でデスティモナ次期伯爵と仲良くなったなんて言ったらダメだからね。とにかくエレナは何もしないのがいいと思うよ」

「ええ。そうです。何もなさらないでください」


 肩をすくめたお兄様とガックリと肩を落とすウェードは、わたしの答えが納得いかない様子だ。

 何もやらせられないほど暴走したつもりはないって言いたいところだけど、エレナの衝動的な行動は目に余る自覚はある。

 かりそめの婚約者とはいえ、エレナの行動で殿下の株が下がるのはやめさせたいんだろう。

 でも、少しでも役に立ちたい決意は変わらない。


「いいわ。直接殿下に直談判しますから」

「えっ?」

「ねえ、殿下、起きてください」


 わたしは殿下の耳元でそっと囁く。

 頭が再びモゾモゾと動く。


「んん……」


 わたしの呼びかけにゆっくりと瞬きをする。

 フサフサとした淡い金色のまつ毛から、湖のような深い青が覗く。

 焦点のあっていない瞳は宙をさまよう。


「……殿下。おはようございます」


 微睡から、あまり刺激を与えてはいけない。耳元でそっと囁くと、急に焦点が合う。


「……エ、レナ? エレナ! すっ、すまない! その……寝てしまうつもりはなかったんだ!」


 膝枕で甘えてしまったことが恥ずかしくなってしまったのか、真っ赤な顔になった殿下は、わたしからパッと顔を逸らして身体を縮こめる。


「お疲れだったのだから、寝てしまって当然で、恥じることなんてないわ。それにごめんなさい。どうしても殿下にご相談があって起こしてしまって」


 そう言って頭を撫でても、殿下の身体はどんどん強張っていく。

 そりゃ、疲れてるってわかってるもの。もう少し寝かしてあげたかったけれど、でも、いまわたしが殿下のお役に立つために王宮に出仕できることが決まれば、負担が減って今後ここまでお疲れにならないはず。


「わたし、殿下のお役に立ちたいの。おそばにいてもいい?」


 わたしの質問に、殿下は顔を上げた。

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