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34 エレナと異世界の編み機

 お兄様を探すために別荘内を歩き回る。

 殿下を追いかけてきた騎士や役人の人数がどんどん増えてきた。

 まあ、アイラン様もいらっしゃるし警護が万全になるに越したことはないけど……

 いろんな部屋のドアを開けたいけど、人目が気になってお兄様を探しづらい。


 諦めて、わたしがお借りしている部屋に向かうと、お兄様はアイラン様とお茶を飲んでキャッキャしていた。


 お兄様は自分が殿下のヒロインだという自覚はないのかしら。


「あ! エレナ! いいところに! 編み機を持ってきてもらったからエレナも見せてもらいなよ」


 別荘に人が増えたのは、アイラン様の輿入れ道具の一部をこの屋敷に運ばせているからもあるみたい。

 数日でも過ごすなら使い慣れた日用品や衣装は自分のものを使いたいものね。


『ぜひ、編み機をみてみたいわ。どちらに置かれてるんですか』


 領地でみんなが使ってる足踏み式の機織り機はかなりの大きさがある。

 編み機だってそれなりの大きさなはずなのに、見回しても編み機らしきものは見当たらない。


 アイラン様はフフンと笑って、奥の文机を指し示す。


『あそこに置いてあるわ』


 確かに机には何か物が置かれた上に布が被されている。

 わたしは近づき、布をはがす。


 え? うそ。


 これって……


 見慣れた言葉が記された、見慣れない装置に心臓が飛び出そうになる。

 知ってるけれど、知らない素材でできた装置は、異質を放つ。

 まるで、場違いな工芸品(オーパーツ)


 固まっているわたしの後ろでお兄様の笑い声が漏れる。


「これって……」

「これじゃあイスファーン王国で大切にしてるものだから輸出できないって言われるよね。異世界から渡ってきたものなんて」


 ──異世界。


 わたしはその言葉に思い切り振り返る。


「何十年も前にイスファーン王国に家屋ごと異世界から渡ってきたんだって。そこの家屋に住んでいた人が、この機械をたくさん持ってたんだってさ」


 机の上に鎮座するこの編み機は、プラスチックと金属でできている。

 本体部分には前世の家庭科の授業で使ったミシンと同じメーカー名がアルファベットで記され、ボタンやツマミの下には日本語が書かれていた。


 お兄様は、なんてことないように受け入れている。

 異世界から、人やもの、それに家屋まで異世界から転移してくるなんてこと、この世界では当たり前なの?


 アイラン様もネネイも大したことがないようなそぶりだ。


 家まで異世界に飛ばされるなんて話なら、なんか、思い出せそうな気がする。

 絶対に知ってる。

 なんて題名の話だったかしら。


 あ。オズの魔法使い⁈


 ううん。確かにオズの魔法使いは竜巻で家ごと異世界に飛ばされるけど……

 知る限りこの世界には、喋るカカシもライオンもブリキのきこりもいるなんて聞いたことないし、エメラルドの都も聞いたことない。


 やっぱり、全然思い出せない……


「とりあえず、仕組みはこないだイスファーンにいる時に見せてもらってわかったから、素材にこだわらずに作らせてみたらいいかなって思って。木製とかでもいけそうじゃない? なんなら金属製の大きな機械にして、工場を作ってもいいと思うんだよ。人力で動かす部分も機構を巨大化させて水力でいけそうじゃない? せっかく領地の河川は護岸整備済みなんだから、大きな工場建てたかったんだよね」


 お兄様はお金儲けの算段でもしてるのか、ホクホク顔だ。

 ちょっと前まで無駄にアンニュイで色気を振り撒きまくっていたとは思えない。


「ね! エレナもそう思うでしょ」

「そっ……そうね」

「だから、エレナはアイラン様に使い方教えてもらって、どんな物が作れそうか考えてね」


 いつも通り自分のしたいことに人をどんどん巻き込んでいくお兄様を、冷めた目で見つめ返す。


「……お兄様はご自身で使い方覚えないの?」

「エレナ。いい? 適材適所って知ってる? こういうのは、エレナが覚えて、考えるのが一番だって」


 そうだ。適材適所で思い出した。


「お兄様。では、適材適所でわたしが編み機の操作方法を覚えて、何を作るか考えますので、お兄様は殿下の手助けをなさってきてください」

「え。何急に」

「殿下に届いたイスファーン語の書類を翻訳してきてください」

「なんで僕が。僕は文官じゃないよ」

王立学園(アカデミー)の学生は役人見習いの立場ですから、お兄様がお仕事されるのは問題ないはずですわ。お兄様は貴重なイスファーン語の翻訳ができる人材なんですから、適材適所でがんばってらしてください」


 ヒロインのお兄様がそばにいらっしゃればきっと殿下も喜ばれるに違いないわ。


 文句を言おうとするお兄様の背中を押して、殿下の元へ向かうように促した。

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