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32 エレナと殿下の想い人

 ちょっと待って!

 殿下の気持ちに沿うってことは、お兄様は殿下の恋路を応援するってこと?


 そりゃ確かに、エレナの破滅フラグを考えたら、早めに婚約破棄してもらった方がいいと思うけど、まだ心の準備ができてない。

 お兄様が応援なんてしたら一気にことが動いちゃう。

 わたしは、慌てて立ち上がりお兄様を急ぎ足で追いかける。


 ああもう! 背の低いエレナとお兄様では脚の長さが違いすぎて、全然追いつかない!


 お兄様は、殿下と話し合いをしていた部屋に向かってる。


 そうだ。回廊で繋ぎロの字型に配置された建物は、中庭(パティオ)を通り抜けた方が先回りできる。


 馬車旅だからと着慣れたワンピース姿だもの。中庭を駆け抜けるのなんて造作ない。

 わたしは中庭に出て、スカートを捲り上げ走り出す。わたしの足音も、中庭の中央に配置された噴水の水音でかき消される。

 幼い頃の記憶を頼りに、殿下のいらっしゃる部屋の窓辺に辿り着く。

 覗き込むと、丁度お兄様が部屋に入ってくるところだった。


 窓は閉め切られていたので声は聞こえないけれど、この角度からだと殿下の顔がよく見える。

 相変わらずイケメンで、翳った表情の殿下はため息が出るほど美しい。


 お兄様と言葉を交わすのをついうっとりと眺めていたら、急に殿下の表情が変わった。


 お兄様の発言に反応した? 殿下に何を伝えたの?


 嫌な予感にドキドキして目を背けたいのに、目が離せない。


 殿下の深い湖のような真っ青な瞳に太陽の光がさしたように光が宿り細められる。ほのかに染まった頬に、口角が上がった口元はいつもと違いふわりと優しく緩む。


 まるで、幼い頃に憧れたままの殿下がそこにいらっしゃった。


 大好きな殿下は、お兄様に歩み寄り……


 力強く、抱きしめた。


 慌てて、窓から顔を背ける。


 だっだっ……抱きしめた⁈

 ええっ!

 どう言うこと?


 決意して、もう一度窓の中を覗く。

 窓の中では、殿下がまだお兄様を抱きしめたまま、歓喜の表情を浮かべていた。


 エレナにあんな顔をみせてくれたことなんて最近あった?

 心の中で首を振る。

 最近、二度抱きしめてもらったのを思い出す。あの時の殿下は何かに耐えるような、険しい……まさに苦悶の表情を浮かべていた。


 無邪気に幸せそうに笑う殿下を見て、最近感じていた、たくさんの疑問点が線で繋がる。


 ……ああ。そうか。殿下の好きな人はお兄様だったんだ。


 この世界は、本当にBLゲームの世界だったんだわ。

 そうよね。やたらとイケメン揃いだと思ったもの。


 お兄様が主人公で、殿下は対象者?

 それとも殿下が主人公で、お兄様がヒロインだったのかしら?

 前世の記憶も曖昧なわたしはBLゲームの世界だってことに辿り着けても、作品名はわからない。


 わかるのは、わたしはお兄様と殿下の恋路の障害だろうってこと。


 その場から離れて、わたしはフラフラと歩き出した。



 ***



 騎士や役人が殿下を追いかけてきたのだろう。屋敷の中が騒がしくなってきた。


 わたしは行くあてもなく歩く。


 ドン。

 人にぶつかった衝撃で尻餅をつく。頭の上に紙が降ってきた。


「チッ」


 舌打ちが聞こえる。

 誰?

 そりゃ前を見てなかったわたしも悪いと思うけど。

 顔をあげると、不愉快さを全く隠す気のない役人がわたしを見下ろしていた。

 なんか見覚えがあるんだけど……


 長めの前髪をかきあげる仕草は自信満々。

 艶やかな黒髪にアーモンドみたいな大きなつり目。顔立ちは整ってるけど……

 殿下やお兄様を見慣れてるエレナは、ちょっとイケメンなくらいじゃ簡単にはときめかないから覚えられない。見覚えはあるんだけど誰かまでは思い出せない。


「お前のせいで書類が落ちたんだから拾えよ」


 床を見回すと書類が散乱していた。理不尽に思いながら拾い集める。


 全部イスファーン語の書類だわ。


「ついてこい」

「え?」

「この別荘の管理人かなんかの娘だろ?」


 目の前の役人はそう言って鼻で笑った。


「俺は、将来有望な人間だ。媚の一つでも売っといた方がいいと教えてやってるんだからありがたく思え」


 そう不遜な態度を取る役人の後ろでジェレミー様が拳を震わせているのが見えた。

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