13 エレナ、湖への小旅行
お兄様に聞いた話から、わかった事が沢山ある。
まずはコーデリア・シーワード公爵令嬢について。
元々殿下の婚約者候補筆頭でいらしたご令嬢で、王国内最大の貿易港を持つシーワード公爵領のお嬢様。
とんでもなく美人で殿下とお似合いとの呼び声も高かった。
婚約発表直前と噂されていたが、自領の内政不安を治めるため婿をとることとなり、一年ちょっと前に殿下の婚約者候補から外れた。
コーデリア嬢の周りには、未だに殿下との結婚を願っている者も多いらしい。
お兄様は「殿下とコーデリア嬢はそもそもご婚約に至ってないし、お互い未練なんてないのに、周りが騒いでいるだけだよ」なんて言っているけど、わたしを慰めるために言ってるに違いないから、話は半分に聞いておく。
そしてわたしが婚約者に決まった経緯。
……これは、エレナが聞いたら耐えられないだろうなって思う。
コーデリア嬢を前提に婚約者選びが進んでいたのが、急に白紙に戻ってしまった。
慌てて他の候補者をたてようとしたけれど、あまりにもコーデリア嬢が有力すぎたから他の候補だったご令嬢方はすでに殿下の婚約者になるのは諦めて他の婚約者がいた。
そのため婚約者候補の末席にいたエレナに白羽の矢がたった。
消去法……か……
昔から知っている友人の妹が急に婚約者になるだなんて、微塵も考えたこともなかったんだろうな。
殿下のエレナに対する子供扱いにも、納得するしかない。
そして今、王立学園では殿下を巡って、コーデリア嬢にどうしても結婚してほしいコーデリア嬢の取り巻き達によるエレナへの嫌がらせや、コーデリア嬢には地位も美貌も敵わないけど、エレナになら勝てると踏んだ、今まで候補にすら上がってなかったご令嬢達が、殿下に色仕掛けを仕掛けてきたりと大変らしい。
殿下の誕生日である半年後に、成人を祝うパーティーが開かれて、わたしが公式に婚約者だと発表される。
そうすれば表立っての動きはなくなるだろうとの事だった。
だから、お父様達ができる限り王立学園をお休みする様に勧めてきたのね。
とりあえず状況はわかったわ。
未だにこの世界がどんな作品で、わたしは殿下の婚約者という事以外どんな役割を当てられてるのかは全く分からないけれど……
少し分かったのは、わたしがこのまま殿下と結婚しても平穏すぎてなんのドラマ性もないけれど、コーデリア嬢と殿下の結婚ってなるとドラマ性が生まれるってこと。
家の都合で引き離された二人が、愛の力で困難を乗り越える。
エレナは殿下とコーデリア嬢の結婚を阻む、困難のスパイスだ。
じゃあこの後エレナはどう振舞えば幸せになれるんだろう。
エレナは殿下に愛されてはいないかもしれないけれど、家族や使用人にはとても愛されている。
殿下との結婚に固執さえしなければ、結構幸せに暮らせるんじゃないかしら。
婚約破棄してもらう様にお願いする?
……って理由もないのに無理よね。
殿下に嫌われる様なことして婚約破棄されるとか?
匙加減を考えないと、悪役令嬢まっしぐらで不敬罪で処罰されたりしちゃうよね。
最悪死刑。
うーん……それは超リスキー。
やっぱり王道通り殿下に上手いことシーワード領の内政不安を取り除いてもらって、障害がなくなった愛し合う二人はハッピーエンド。
婚約破棄されたエレナは、何か悪い事をしたわけじゃないし、静かに領地で暮らしましたとさ。
ってのが最善ルートよね。
うんうん。
一人で納得していると、お兄様に手を握られる。
「本当に心配しないで。殿下は婚約発表に向けて準備をしてくださっているから。聞いてると思うけど、明日殿下が準備のためにエレナに会いにくるから、その時に少しお話しできると思うよ。殿下にお任せしておけば大丈夫だからね」
ちょっと。
明日殿下が来るなんて聞いてない……
でも、聞いてたらきっとここまで落ち込んでなかっただろうから、お兄様が心配して外に連れ出してくれることもなかった。そうしたらコーデリア嬢の話も知らないままだった。
結果オーライ。
とりあえず、最善ルートに移るチャンスを狙いながらひとまずは流れを身に任せよう。
そう決意を固めた。