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14 エレナと差し入れ

 お父様とお兄様が特使としてイスファーン王国に訪問している間も、わたしは王都でお留守番。

 引き続き毎日のように差し入れを持ってスピカさん達の稽古見学を続けている。

 毎日差し入れを持って騎士候補の生徒達と交流を持つことで、人となりが見えてくる。

 みんな、エレナが殿下の表面上だけの婚約者で、周りから認められてないことくらい知っているはずなのに、馬鹿にしたりしない。

 誠実な人たちばかりだった。




「明日から、またしばらくエレナ様もコーデリア様も学園にいらっしゃらないなんて寂しいわ」


 仲良くなったベリンダさんの眉尻が下がる。


 お兄様がアイラン様を連れて帰国すると、我がヴァーデン王国とイスファーンの友好の架け橋になるようにと、因縁のあったボルボラ諸島で婚約式をとりおこなう事になっている。

 兄妹であるわたしはもちろん婚約式に参加するし、コーデリア様はボルボラ諸島を治める公爵家の一員として参加する。

 明日王都をたち、ボルボラ諸島に向かう。


「また戻ってきたら一緒に見学しましょう?」

「エレナ様! 絶対ですよ」


 ぎゅうっと握られた手は痛い。


「わたしも寂しいです」


 今度はメアリさんが大袈裟にかぶりを振り、わたしの手をベリンダさんから奪い取る。

 痛みから解放された手をそっと撫でてくれる。


「ご婚約者様のお店に、差し入れの注文が入らないから?」

「もちろん!」


 三人で声をあげて笑う。


 コーデリア様とミンディさんは婚約者であるダスティン様とブライアン様がいらっしゃる時しか見学にご参加されないので、毎日通っているのはわたしとベリンダさんと、メアリさんの三人だ。

 最近は差し入れを屋敷から持っていくよりも、メアリさんに頼んで手配してもらうことのほうが増えた。

 メアリさんに頼んでおけば時間になるとジェームズ商会の店員が届けてくれる。

 まんまとメアリさんの策略にはまって懇意にしている気がするけれど、でも、メアリさん自体はとても話しやすいので、策略にはまってもいいかなって思う。

 エレナがもし今後悪役令嬢フラグが折れずに、婚約破棄されて侯爵家のご令嬢でいられなくなるような事になったらジェームズ商会で働かせてもらえないかなぁ。

 刺繍とか買い取ってくれないかしら……

 それはさておき。


「お二人とも引き続き見学は続けられるんでしょ?」

「見学を続けたいんですけど……」


 ベリンダさんがチラリとメアリさんの顔を伺う。


 ボルボラ諸島での婚約式には殿下も訪れる。

 そこにはオーウェン様やダスティン様をはじめとした、殿下の護衛を担う近衛騎士候補達の御令息達も同行する事になっていた。

 ベリンダさんのお兄様であるブライアン様も、メアリさんの双子の弟であるジェレミー様ももちろん近衛騎士候補筆頭として同行するから、しばらく王立学園(アカデミー)に来ることはない。

 そのなかでメアリさんに見学付き合ってとは言いづらい様子だった。


「わたしはベリンダさんがいらっしゃるなら、見学続けますよ」

「本当に⁈ よろしいの⁈」

「ええ。ケイリー伯爵家の領地は大きな宿場町を有してますでしょう? ジェームズ商会の販路を広げるためにもケイリー伯爵家のベリンダ様とご懇意にさせていただきたく存じます」


 メアリさんはそう言ってわざとらしくお辞儀する。

 なんか、既視感がある。

 大袈裟でわざとらしくて、いたずらめいているのに憎めないこの感じ……

 そうだ。メアリさんが話しやすいのはお兄様っぽいんだ。

 まだお兄様と十日くらいしか離れていないけど、懐かしい気持ちになったわたしは、堪えきれずにくすくすと笑いが漏れてしまう。

 二人の顔がわたしを見つめる。


「お二人にお願いしたいことがあるの」


 笑うのをやめておすまし顔で取り繕う。


「わたしにできることでしたらおっしゃってください」

「わたしもエレナ様とご懇意にさせていただきたいのでなんでもお申し付けくださいませ」

「ふふ。わたしの代わりにスピカさん達に差し入れを渡して欲しいのだけどお願い聞いてくださる?」

「もちろん!」


 わたしの依頼を受けるなんて口実があればベリンダさんは見学に来やすい。

 メアリさんは引き続きわたしがジェームズ商会に差し入れの依頼をすることで、儲けが維持できる。

 そしてわたしはスピカさん達に差し入れが続けられて、ルーセント少尉にヘイトが溜まりづらくなる。


 これで、清々しい気持ちでボルボラ諸島に行けるわ。

 わたしは胸を撫で下ろした。

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