6 エレナと殿下の三騎士の関係者たち
「やだっ、メアリさんったら! 違うわ!」
ばっちーん!
可愛らしいベリンダさんが思い切り振りかぶってメアリさんの背中を叩く。
すごい音……
「いててっ……だって、ほら、エリオット様を狙ってたご令嬢達が、エリオット様がイスファーンのお姫様に求婚したって聞いた途端、臨時講師をされているルーセント少尉に鞍替えして、お近づきになろうと口実を作るのに必死よ。女騎士になりたいなんてうそぶいて稽古に参加してる人まで出始めたんですって」
メアリさんが顔を顰め背中をさすりながら、教えてくれた。
「ルーセント少尉?」
「ええ、中央騎士団のキリアン・ルーセント少尉が王立学園の生徒達に稽古をつけに来てくださってるんです。ブライアン達も王立学園にいる時はルーセント少尉の稽古に参加していますけど、最前線にいる方に鍛えてもらえるのは貴重な機会だと言ってました」
キリッとした美人のミンディさんがわたしに説明すると、メアリさんが人差し指をチッチッチッと左右に振る。
「実力もですけど、やっぱり顔ですよ顔! エレナ様はルーセント少尉のことご存じないんですか? 強面の騎士団の中で涼やかな美貌のルーセント少尉は市井でも女性人気が高いんですよ!」
「そうなのね。知らなかったわ。王立学園のご令嬢の皆さんや市井の女性が夢中になるほど素敵な方ってどんな方なのかしら」
そんな人気のイケメンが王立学園に来ているなら見てみたい。
スピカさんがいま参加してる稽古をそのルーセント少尉が受け持ってるってことよね。
あとでスピカさんに聞いてみよう。
「まあ、でも、エレナ様は麗しの王太子様やエリオット様を見慣れてらっしゃるから、ご覧になっても感動はないかもしれませんけど」
「王太子様達はそりゃ素敵ですけど、キリアン様はまた別の魅力だわ! キリアン様は幼い頃に隣国でクーデターが起きて、ご家族と一緒に亡命する際にご両親を亡くされてるの。幼いキリアン様を受け入れてくれたこの国に身を尽くして恩を返そうとされている立派な方だもの!」
メアリさんがおどけているのをベリンダさんはムキになって反論する。
おっと、この反応は……
「もしかして、ベリンダさんは、ルーセント少尉をお慕いしていらっしゃるの?」
「えっ!」
「ベリンダの初恋の方だものね」
「ミンディったら!」
ばっちーん!
わたしに聞かれて真っ赤になったベリンダさんは、今度はミンディさんに揶揄われて思い切り背中を叩く。
かなり痛そう……
わたしも発言には気をつけよう。
「わたしが子供の頃に、騎士見習いになったばかりのキリアン様をその頃近衛騎士団で騎士団長をしていたお父様が我が家によくお連れになっていたから、久しぶりにお会いできるならご挨拶したいと思っただけよ」
「ブライアンがいなくてもご挨拶にいったらいいのよ」
「わたしのことなんて覚えてないわ」
ミンディさんとブライアン様は幼馴染ということは、ミンディさんとベリンダさんも幼馴染って事よね。
二人とも気安く話している。
「こないだブライアンが稽古に参加した時、ルーセント少尉が懐かしそうに声をかけてくださったっていっていたもの。ベリンダのことだって覚えているわよ」
「きっと覚えていらっしゃっても、わたしなんてキリアン様にとってはおチビちゃんのままよ」
わかる!
ベリンダさんの気持ちが手に取るようにわかる!
自分だけが一方的に恋焦がれて、相手に子供扱いされるのなんて切ないもんね。
「あの、ベリンダさんさえよければ明日の稽古、わたしと一緒に見学にいきませんか? 友達が稽古に参加しているので差し入れしにいこうと思ってるんです。見学に付き添ってもらえたら心強いわ」
「いいんですか?」
ベリンダさんはわたしの手を取って握る。
ぎゅうううう。
痛い……
わたしは痛みでひきつりながら微笑む。
「明日でしたら、わたくしも予定が空いておりますから、付き添いして差し上げてもよろしいですわよ」
食事をしながら静観されていたコーデリア様が、ナプキンで口を拭いて、明日の稽古見学に参戦の表明をする。
それを聞いたメアリさんが「順番的に、明日ダスティン様が王立学園にいらっしゃるんです」とわたしに小声で教えてくれた。