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10 エレナとお見舞いの花束

 お兄様としばらく談笑をしていると、殿下とランス様がいらっしゃった。

 殿下の顔色も良くなったみたいで安心する。


「殿下。体調は大丈夫?」

「あぁ、問題ない」

「お茶は?」

「いや。お茶は結構だ。仕事が残っててすぐ戻らないといけないからね」

「相変わらず大変だね。まぁ、とりあえず席に座ったら?」


 いま、この部屋にはわたしとお兄様と殿下とランス様の他にはメリーがテーブルから離れて控えているだけ。他の使用人は下がらせている。

 お兄様は周りに他人がいないからか、殿下と幼馴染らしい気安い喋り方にかわった。


 親しげな雰囲気は見てるだけでときめく。

 殿下とランス様の二人の関係性も尊いけれど、殿下とお兄様の幼馴染っぷりも萌える。


「エレナ嬢。待たせてすまなかったね。今日は花束を渡したかっただけなんだ」


 殿下はお兄様がおすすめした席に座ると、隣に立つランス様に声をかけて、わたしに花束を渡す様に促した。


 ……そっか。

 殿下から直接渡されるわけではないのね。

 そっか、渡すのも嫌なのか。殿下から渡されたりしたらエレナが調子に乗ると思われてるのかな。

 胸がぎゅっと苦しくなる。


 でもまぁ、エレナは耐えられないかもだけど、わたしは大丈夫。

 ランス様もイケメンだしね。

 殿下もお兄様もどちらかと言うと煌びやかな感じだけど、ランス様はクールでそれはそれで素敵。

 メガネかけてないけど、メガネが似合いそうな、影のある優等生みたいなイケメン。


 うん。イケメンから花束渡されるなんて、キュンキュンする! って思い込もうとする。


「殿下がエレナ様にと選ばれた花束です。お受け取りを」


 受け取った花束を覗き込むと、沢山のマーガレットと、なんかいろんな菊がひとまとめにされていた。


 ん? んん?


 わたしには、おばあちゃんがお仏壇に供えてる仏花にしか見えないんだけど。

 この世界はお仏壇なんてないだろうし、お見舞いに菊をプレゼントする習わしがあるのかしら……


 よくわからないけど、とにかく笑顔でお礼を言わなくちゃ。


「殿下。可愛いマーガレットの花束をありがとうございました」


 花束から顔をあげると殿下はわたしをじっと見つめていた。


「……どうされましたか?」

「あっ。いや。まるでマーガレットの花の精のようだと思ってね」


 殿下は一瞬戸惑った顔を見せたけど、すぐに口角を上げて笑顔を作ると、さらりと歯が浮く甘い言葉をかける。

 本当のエレナならこの台詞に喜んだのかしら。

 マーガレットの花の精だなんて、そんなこと心にも思ってなさそうなのに。


 仏花のような花束を抱えていると、困惑した顔のメリーが近寄ってくる。


「エレナお嬢様。せっかくシリル殿下に頂いたお花ですから、さっそく花瓶に生けましょうね」

「ありがとうメリー。お願いね」


 わたしはメリーに笑顔を向けて、花束を渡す。


 きっとメリーの表情から察するに、やっぱりお見舞いに菊の花束はこの世界でもおかしいのね……

 殿下はどういうつもりでこの花束を贈ったのかしら。

 口角だけあげて笑顔を作った殿下からは、気持ちは全く読み取れない。

 じっと見ていると、殿下はそっとわたしから目線を外し、さっきみたいに眉間を摘んでため息をつく。


「エレナ嬢。先程トワイン侯爵に、体調が万全になるまでしばらく屋敷で過ごすと聞いたよ。しばらくの間エレナ嬢と王立学園(アカデミー)で過ごせないのは残念だが、何か私ができることがあったら言っておくれ。では、私はやらなくてはいけない仕事が残っている。これで失礼するよ」


 忙しい中婚約者としての責務を果たしたのだからもういいだろうとでも言わんばかりに、殿下は立ち上がると、こちらに一瞥もくれず扉に向かってしまう。


「エレナ様。お大事に」


 ランス様がそう言い慌てて殿下の後を追いかけていったのを、わたしは声もかけられずに、ただただ見送ることしか出来なかった。

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