高速貨物列車の旅
この世界の日本に新幹線はないが、鮮魚列車は現役である。
北は青森、南は九州から。新鮮な魚介類を満載した高速貨物列車が、築地市場を目指して夜の鉄路を走破して来る。
そして帰りの荷物は『軍事物資』を満載していた。
高速道路が普及していないこと。太平洋側の海路は『休戦中』とは言え危険が伴うことから、鉄道輸送の比率は依然高いままだ。
故に東北地方への貨物輸送は、鉄路に頼らざるを得ない。定時性の高さが要求される軍事物資ともなれば、なおさらだ。
民営化の『み』の字もない国鉄であるからにして、何かと理由を付けて車掌室に『公務員』を乗車させるのはやぶさかではない。
それが『軍用列車』も同じであれば、軍人が同乗する理由は幾らでも考えられる。そして軍人なら『極秘任務』もあるだろう。
ある日、八戸漁港近くにある鮫駅を弓原少尉は訪れる。
この駅から出発する高速貨物列車『東鱗三号』に、秘密裏に乗車するためだ。それは偶然『雨で溶けないようになる薬』に関する情報を、掴んでのことだった。『命を狙われている』の自覚もある。
乗車すれば、誰とも出会わずに東京まで行ける筈だった。
東鱗三号は八戸貨物駅で青森方面からの貨物列車と連結し、その後一晩掛けて東京を目指すことになる。途中何駅かに止まりながら。
青森方面からの貨物列車には、東京へ『轟沈の報告』をするために石井少佐らが乗り込んでいた。彼は飛行機が嫌いで、寝台列車より早く東京へ到着する高速貨物列車に、好んで乗っていたのだ。




