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ショートショート4月〜4回目

誰も知らないが、 私は神 だ

作者: たかさば

 …私は、神である。

 なんと、この世界の神様をやっている。


 だがしかし、神であることは誰も知らない。

 なぜなら、神であることを公表していないからだ。


 公表したらどうなるか、やってみたことがある。

 

 あれを叶えてください。

 これを叶えてください。


 はじめのうちは低姿勢なのだ。


 叶えてくれなければお前を殺す。

 叶えてくれなければ世界に毒をまく。

 叶えてくれなければ何が起きるか分からないぞ。


 驚くことに、神に対して脅しをかけるようになったのだ。


 神を拘束し、支配しようとした。


 こんな世界は失敗だ。

 こんな世界は消すべきだ。


 初めからやり直すことを決め、リセットした。


 そんなわけで、今は私が神である事を公表していない。


 神であることを隠している世界は、割と快適だ。

 面と向かって叶えてくださいと言われたら、願いを叶えたくなってしまうのだがそれが起きない。

 ろくでもない願い事を前にして、断り切れずに悩むこともない。


 願いを叶えるべきじゃないとわかっていても、直接自分に願い事を言ってくれたという喜びが大きいのは問題だ。


 目の前にいる人を優先させて、後悔する事もあった。

 目の前の人を見捨てられず、後悔する事もあった。


 一人の願いを叶えることでその人にとって喜ばしい世界が構築されるわけだが、それが星のためになるかどうかは分からない。


 何度も何度も、失敗をし。

 何度も何度も、やり直しをし。


 時々気まぐれに、誰かの願いを聞き入れて。

 時々たわむれに、誰かの願いをスルーして。


 ひと一人の願い事なんて星を脅かすようなものじゃないと思いながら、適当にのらりくらりとやってきた。


 ただなんとなく、うまく行っていた星作りの記憶を思い出しながら人に紛れてきた。


 途中までは完ぺきだった世界の記憶。

 いきなり壊れた世界の記憶。

 変わり映えしなくて飽きた世界の記憶。

 気に入った人が増えなかった世界の記憶。

 魔法を残すことができた世界の記憶。


 うまく行っていた時代を思い浮かべ、それに近づけようと考えていた。

 しかしながら、思い描いた世界は、遠のいている。


 毎度毎度適当に願いを叶えていたので、どの願いを叶えた事が原因なのかがよく分からない。


 全てをやり直せばうまくいくと思ってリセットしてみても、いつのまにか予想しない時代が築かれてしまう。


 場所の名前が変わったり。

 山の高さが低くなったり。

 人の言葉が変わったり。

 電子レンジが発売されたり。

 有名人の性別が変わったり。

 人が月の上に立ったり。

 宝石の価値が変わったり。

 ロボットの出てくるタイミングが遅れたり。


 小さなことは違いが顕著だが、大まかな流れが一緒になりやすい。

 小さなことはほとんど変わらないが、大まかな流れが明らかに違う事が多い。


 どこまで戻せばいいのか、よくわからない。


 腹を空かせていたあの一人の男に、この木の実を食べると良いと教えたのがいけなかったのかもしれない。

 肉を食べればいいではないかと差し出したのが、間違いだったのかもしれない。

 あの時虫を出していれば、また違った違った文明が完成していたのかもしれない。


 ほんの些細な事で、歴史がおかしな方向に進む。


 あれほど奪い合っていた虫の肉なのに、今受け入れようとしない歴史が流れている。

 あれほど毛嫌いしていた猫なのに、今愛玩する歴史が流れている。

 あれほど執着して食べ続けていた米なのに、今主食が分散化している。

 あれほど喜んで浸かっていた海なのに、今どこにも海水浴の習慣がない。


 この路線では、土に埋もれて休むブームは来ていない。

 このレベルでは、気体で食べるという発想ができない。

 この環境では、時間の原理を理解している人がいない。

 この流れでは、尊厳食の開始が認められそうにもない。


 何が起きるのかは、リセットしてみないとわからない。


 人はいつでも、途方もない行動をして私を驚かせる。

 人はいつでも、予想を超えて私を落胆させる。

 人はいつでも、期待を裏切り私を混乱させる。


 リセットをしたら、変化を遮ることになるかもしれない。


 もう少ししたら、常識が変わるかもしれない。

 もう少ししても、何も変わらないかもしれない。


 いつリセットをするのか悩むところだ。


 そろそろ久しぶりに自分が神であることを公表してもいいかもしれない。


 だがしかし、人は何をするのかわからない。


 もしかしたら、神を拘束するかもしれない。

 もしかしたら、神を意のままに操ろうとするかもしれない。

 もしかしたら、神を食って永遠の時を生きようとするかもしれない。


 私が今できる事は、何が起きるか分からない今の時代を一般人に紛れて楽しむ事だけだ。


 いつリセットしようか、今日やろうか。

 リセットするのをやめようか、今日はやめておこうか。


 今リセットしたら、アレに出会えないかもしれない。

 今リセットしたら、アレが発生するルートが消えるかもしれない。

 今リセットしたら、アレを楽しむチャンスが無くなるかもしれない。

 今リセットしたら、アレはもう二度とこの星の上に現れないかもしれない。


 リセットする勇気が出ないまま、今日もぼんやり過ごす。

 リセットする気になれないまま、今日もぼんやり過ごす。


 今リセットしたら、アレに出会えるかもしれない。

 今リセットしたら、アレが発生するルートに乗れるかもしれない。

 今リセットしたら、アレを楽しむチャンスがやってくるかもしれない。

 今リセットしたら、アレともう一度この星の上で出会えるかもしれない。


 もうリセットしようか、今からやろう。

 リセットすべきだ、今しなければ。


 私は、この世界を、リセットしようと。


 ……しようと。


 しようと、したのだが。


 リセット、できない。


 リセットする方法を、思い出せない。

 リセットする方法が、思い浮かばない。


 ぼんやりし過ぎて、リセットする方法を忘れてしまったようだ。

 人に混じり過ぎて、神の品格をどこかに追いやってしまったようだ。

 いろいろ考え過ぎて、ストレスがかかってしまったようだ。


 忘れてしまったのなら、仕方がない。


 ……忘れてしまったのだから、思い出すまでここにいるしかない。


 なんだかとても、疲れてしまった。


 とても…頭が、重い。

 すごく…胸が、重い。


 かなり…心臓がバクバクする。


 ヤバい…倒れそうだ。


 ……ちょっと、休憩しよう。


 私は道端の花壇の端に腰を下ろし。

 私はリュックをひざの上に置き。


 私はリュックを開けてペットボトルを出し。


 私はリュックから薬袋を取り出し。


 私は薬を27個手のひらにのせ。


 私は口いっぱいに薬を頬張り。


 私は、私は、私は、私は、私はわたしはワタシはたしわたしわたしわたたたたたた


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― 新着の感想 ―
[良い点] 神様はこの世で一番偉く、悩みなんかなさそうな存在に思えますが、 むしろ人間以上に色々なものを抱えて、悶々としているのかもしれませんね。
[良い点] カミまくりのオチwww
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