第一話
―――それはある日突然落ちてきた―――
「えー、こちら飯能市の有間山頂上付近からですね、少し西側でしょうか、西側に1kmほどの地点の様子です。山肌に大きな焼け跡でしょうか。何かが墜落したような跡が200mくらいでしょうか広がっています。火災はすでに消火作業が進めているようでして所々から煙が立ち上っているのが伺えます。
付近のキャンプ場の利用客の話によりますと、明朝6時位でしょうか。空から隕石のようなものが落ちてきたとのことです。ただ落下したものが何なのかは未だにわかっておりません。上空から様子をうかがってみてもですね、何かが墜落した跡はあるんですけど墜落したものが全く見当たらないんですね。」
ヘリコプターの羽が高速で回転するけたたましい音がする中、TVキャスターと思われる30代くらいの男が埼玉県飯能市の上空でヘリコプター室内から外の景色を眺めながらマイクを手にカメラに向かって現場の状況をスタジオに伝えている。
窓の外にはまるで飛行機が墜落したかのようなあとが山肌に大きく残されていた。
2023年3月15日明朝。
肌寒い夜もようやく終わり宇宙も薄っすらと明るさを取り戻しつつある時間。空にゆっくりと流れるように落ちてくる流れ星があった。
それは太平洋の方から飛んでくるような形で、一体どこから飛んできたのだろうか、段々とこちらに落ちてくるように少しずつ高度を下げている。
「ねぇあれ、なんだろうね」
秩父のキャンプ場で女が男に声をかける。
これからコーヒーを入れようとコンロで火に掛けていたケトルに手をかけようとしていた男がを空を見上げる。
「え?」
女が指差す先には火球のようなものが軌跡を描いて飛んでいるのが見えた。
「うわ、すげーぇ。あんなの初めて見たよ」
男は今淹れようとしていたコーヒーのことなど忘れてやや興奮気味に目を輝かせながらそれを見上げた。
「そうだよねぇ流れ星かなぁおっきいね」
ほんの僅かに不安そうな最初の一声とは変わり、男のワクワクした顔を見て女も少し気分が上がった。
だが男は数十秒もしないうちに高まったテンションは冷静に戻り
「いやおいちょっと待て、あれこっち来てないか?」
と空に煌々と輝く火球の軌道の心配をし始める。