視線が正直な女
12時を回った。昼食の時間だ。
休憩室に向かうと、先客に1人上司が居た。
適当に空いている席に着いて、自分の手作り弁当を開ける。休憩室に備え付けられているテレビから流れる陽気な映像を眺めながら、それを食べる。
すると、もう1人同僚が入ってきた。社員3人が居合わせた。
後から入ってきた同僚は、この度異動してきて半年になる。独特の雰囲気があるな、と思っていた。
その同僚は私の向かいの席に着いた。彼女が持ってきたお弁当を包む布を解いている最中、私は何となくそちらを見た。
同僚はせっせと布を解いてお弁当を広げながら、顔はそちらに向けて俯きながら眼球のみをキョロキョロと動かして周りを見回していた。
とっさに目を逸らしたからか、同僚と目が合う事は避けられた。
今のちょっと怖かったなぁ等と考えていると、同僚がおもむろに話し出した。
「昨日ね、久々に一人カラオケに行って〜」
この場に居た上司がスマホをいじり続けて特に反応しなかった為、私が返事をする。
「いいなぁ、私も暫くカラオケ行ってないなぁ」
「1人でフリータイムでずっと歌ってて〜」
「1人でフリータイムは凄い」
私はこの時、同僚に違和感を感じていた。
何故なら、彼女の視線は私に向いていなかったからだ。私と会話をしているのだが、ちらちらと上司を見ていた。次第に私の方を見るよりも上司の方を見る方が多くなったので、本当にお喋りをしたい相手は自分ではないのかもしれないと思った。
しかし、上司はスマホの画面から視線を離さず、同僚の会話に入る気配すら無い。
それでも同僚は、お目当ての者からの反応がないが為か私に向かって話しつつも上司に視線を送り続けていた。
「ずっとマイク持ってたから、腕が筋肉痛になってきちゃってて〜、ははっ!」
最後の笑い声の部分で完全に顔ごと上司に向けて放ったのだが、相手はまるで無反応だった。
ここまで来ると最早聞いていないのではないかと思う。
上司が反応しない為、代わりと言っては何だが私が返事をし続けた。どうせなら変な事言ってやろうと思い、
「それじゃあ、急にラップバトルを仕掛けられたらどうするの?筋肉痛でマイク持てないじゃん」
と言うと、先程まで無言だった上司が、
「ラップバトル…」
と声を漏らして笑った。
聞こえてたんかい。
その後、同僚が更にカラオケの採点機能で何点を出したかとか、歌い続けた為声が枯れたおかげでハスキーボイスの歌が良い感じに歌えた等を同じ調子で話していたが、その上司が反応を示したのはラップバトル以外なかった。
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