第1章 恋のライバル
わたし、雪平美咲高校1年生。
この春、花梨高校に合格した。
なんとしてもこの高校に通わなくてはならなかった。
それは……わたしの好きな人がこの高校に通っているからなのです。
こどものころから大好きだった。
◇◇◇◇
「こうちゃん待って~」
わたしはいつも一緒に遊んでもらいたくてついて歩いた。
「わたし、大きくなったらこうちゃんのお嫁さんになる」
そして必ず邪魔が入る。
「まいちゃん、ブランコあいたよ」
――――
いつも邪魔をしてくるのはひとつ上のわたしのおねえちゃん。
雪平美里高校2年生。
こうちゃんもひとつ上なのだ。
八乙女幸輝高校2年生。
幼馴染だ。
そして家は隣。
もう!
おねえちゃんさえいなければ~
家が隣で幼馴染なんて、両想いで恋人になるってストーリーじゃないの~
いつの日からかおねえちゃんはわたしの恋のライバルになっていた。
――――
ピンポーン!
「「は~い、いってきます」」
こうちゃんが毎朝迎えにくる。
一緒に学校にいっているのだ。
それはわたしが中学の時も一緒にいっていた。
◇◇◇◇
中学校の門に到着するとこうちゃんが、声をかける。
「じゃあ、みさき頑張って勉強しろよ」
「うん、わかってる」
「みさちゃん、ひとりで大丈夫? おねえちゃん一緒に教室までいってあげようか?」
こんなわけのわからないおねえちゃんの手をひっぱっていくこうちゃんを毎朝見送っていた。
こうちゃんたちの高校はわたしの中学校が通り道なのだ。
わたしはいつもさみしい気持ちになる。
わたしもこうちゃんと同い年だったらよかったのに……。
――――
でも、今日からは違う。
一緒に高校まで行けるのだ。
「こうちゃんは、何組なの?」
「おれは、みさとと同じ3組だよ」
そうなんです。
おねえちゃんとこうちゃんはクラスも一緒なのです。
も~う!
うらやましい!
「こうちゃん、お昼は食堂?」
「うん、食堂のラーメンうまいんだよ……チャーハンもうまいんだぜぃ」
こういう話をしているときのこうちゃんの笑顔が大好き。
「わたしも食堂で食べようかな~」
「でもみさちゃん、お母さんのお弁当があるじゃない」
そうなんだよ。
お母さんが毎日お弁当を作ってくれるんです。
中学のときからずっと。
ありがたいけど、食堂にいきたい。
「いいな、お弁当作ってもらえて」
「うん」
こうちゃんの家はおかあさんがいない。
だいぶ前に離婚したのだ。
小学校低学年のときはいた。
わたしにも記憶がある。
やさしいおかあさんだった。
◇◇◇◇
こうちゃんのおかあさんは時々、おやつをくれる。
「みさとちゃんとみさきちゃんも一緒におやつ食べよう」
「「うん」」
こうちゃんの家にいっておやつを一緒に食べた。
お庭のプールも一緒にやった。
水鉄砲でうちあった。
「ほら~みさきいくぞー」
「わぁ! 冷たい」
水に浮いているアヒルであそんでいたおねえちゃんに水鉄砲をあてた。
「ほら!」
シャー!
シャー!
「やーやめてー」
はははっ!
それなのにいつの日からか、いなくなっていた。
おねえちゃんもわたしも、こうちゃんのおかあさんの話はしなくなった。
――――
「じゃあ、1年生勉強がんばれよ」
「うん、こうちゃんもね」
そして、こうちゃんとおねえちゃんは2年生の下駄箱にいく。
わたしはまた、ここで見送ることになる。
「みさき、おはよう」
「おはよう、ゆきちゃん」
ゆきちゃんは中学のときからのお友達だ。
なんでも話をするなか。
「なに~またこう先輩見送ってたの?」
「うん、おねえちゃんが羨ましい」
「そっか」
「そういえば、こう先輩とみさと先輩の噂きいたよ」
「なに? うわさって」
「ふたりいつも一緒にいるから付き合ってるんじゃないのって」
「ええええ? そんなの嘘だよ」
「そうだよね、だってそこにいつもみさきもいるもんね」
でも、そんな噂があるなんて嫌だ。
付き合ってはいないはず。
だって、いつもわたしが見張っているから……。
「ほら、みさき教室にいくよ」
「うん」
わたしはゆきちゃんと教室にいった。
「おはよう」
教室に入った。
席は窓際の一番後ろ。
ここは最高の席だ。
だって……ウフフ。
グランドが見えるから、こうちゃんが体育の時間はなんとここから見ていられるんです。
今日は2時間目が体育のはず。
楽しみだな~
1時間目は、英語かぁ~
苦手なんだよな~
早く終われ~念じる。
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン!
ああ、終わった。
わたしは机にもたれかかる。
「みさき、大丈夫?」
「うん、なんとか」
でも……次の時間はこうちゃんは体育だ。
「次は、こうちゃん体育なんだよね~」
「切り替え早いね」
「うん、生き返るよ」
「まじか」
わたしは鞄から双眼鏡をとりだす。
「おいおい、さすがに双眼鏡はまずいだろ」
「いいのいいの」
わたしは、双眼鏡をのぞきこうちゃんが外に出てくるのをみていた。
「わぁ! こうちゃん来た!」
「はいはい、双眼鏡じゃなくてもばっちり見えるけどね」
「サッカーみたいだよ」
「みさき、先生きたよ」
「わかったよ」
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン!
授業が始まった。
「雪平~双眼鏡しまえ~」
「ちょうどいいところなんですぅ」
「こら!」
先生が双眼鏡の前に顔を出した。
先生のドアップに驚いた。
「わぁ! びっくりした」
「びっくりしたじゃないぞ、しまえ」
「は~い」
渋々、双眼鏡をしまった。
でも~肉眼でもばっちり見えるもんね~
2時間目は、こうちゃんのサッカーをしている姿をずっとみていた。
こうちゃんはなにをやってもかっこいい。
勉強はできるし、スポーツもできる。
顔もイケメンだし悪いところがない。
だから、学校でも人気があって困るんだよね。
でも、そんなことはどうでもいい。
わたしのライバルはおねえちゃんだから。