鏡の中の流れ星
あるところに、宇宙を全部映す不思議な不思議な鏡がありましたとさ。
星座たちが、お星さまが、全部映っている魔法の鏡なんです。
その鏡を見たことがあるのは、誰一人として居ないというのですが、それは人間たちの見解によるもので、この鏡自体も伝説だと囁かれていました。
たった一人だけ、その鏡を常に見ることが出来る人物が、実は居たのです。
それは、神様から鏡の管理を任されている《星屑アツメル》というその名の通り星屑集めを生業とする人物でした。
人物というか、半分神様みたいな存在でした。
今日も、全天の宇宙を写す鏡を磨きながらアツメルは宇宙で要らなくなった星屑を選定して回収するという仕事をしていました。
鏡は、それはそれは大きかったので目を凝らして隅々まで見つめていなければなりません。
その為、アツメルは人の眼鏡を掛けていました。
半分神様みたいな存在でしたので、どうしても眼鏡は必須アイテムなのでした。
「おや、この星はもうすぐ寿命を終えて爆発するのだな。そうしたら星屑がいっぱい出るだろう。回収しなくては」
アツメルは鏡の上の方を見てフムフムと手帳にメモをしました。
そして、肩掛けカバンを肩に掛けて網と星屑を入れる特製の革袋を持って鏡に呪文をかけました。
こうすると、アツメル以外が触れるとアラームが鳴るのです。
鏡は、神様から管理を任された特注の物だから他の人が触れては大変困るのでした。
アツメルが星屑を予定どおり回収していた時でした。
アツメルの耳に、アラームの音が聞こえたのです。
「た、大変だ!」
アツメルは一瞬で鏡のある場所に戻りました。
そして大変驚いて腰を抜かしそうになりました。
鏡に触れていたのは、普通の人間の女性だったからです。
「き、君は一体、どうやって」
「わたし?」
人間の女性は不思議そうに自分を指差して、首を傾けました。
「鏡を死ぬ前に見たいと、神様にお願いしたのだけれど。どうやら、間違えたのかしら、わたし」
アツメルには星屑を鑑定する能力だけではなく、魂の行方を視るというもう一つの能力がありました。まあ、滅多に使わなかったのですが。
眼鏡を外して、アツメルは女性の目を見て息を吐きました。
そして集中します。
「嗚呼、貴女は……」
アツメルは悲しそうに呟きました。
この女性は、遥か地球という惑星の古い時代に川の氾濫を沈める為に人柱になった女性の魂だったのです。
つまり、女性はもう、魂の存在となってここまで来たのです。
その理由が、神様の琴線に触れたのでしょう。
高貴なる魂の女性にはどうやら鏡を見る権利があるようです。
「鏡を見たいのですね? さあどうぞ」
アツメルが鏡にそうっと触れると宇宙が映し出されました。
全天の宇宙、星座に星にきらきらと静かに輝く星々がそこにありました。
「まあ、まあ。綺麗……」
女性は、涙を流して鏡を見ていました。
「ありがとうございました」
「いえいえ、お構い無く」
しばらくの間、言葉もなく鏡を見ていた女性は涙を拭うとアツメルに向かって丁寧にお辞儀をしました。
アツメルはその時、神様からのメッセージを受けとりました。
「もう一つ。見ていって欲しいものがあります」
「え?」
「星屑たちよ、流れ星となれ!」
「嗚呼」
女性が感嘆の声をあげました。
鏡の中では、地球の満天の夜空が映し出され、そこには幾つもの流れ星が流れていました。
幾つも、幾つもの流れ星は流れては消えて、また流れていきました。
鏡が元の宇宙に戻った時には、アツメルの隣にはもう女性は居ませんでした。
静かに、残光が残っているだけでした。
アツメルは小さく光る雫を目元から払うと、鏡を拭く作業に入ったのでした……。
お読みくださり、本当にありがとうございました!