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第88話 旅行7

大変おまたせしました。

「ふう・・・」


 バーベキューが終わり、割り当てられた部屋に戻って来た俺は備え付けのソファーにゆっくりと腰を下ろす。

 バーベキューもお酒も素晴らしく美味しかった。普段では味わう機会がない物をたくさん飲食出来て嬉しくもあった。しかし、


「なぜこうも疲れる羽目になるんだ・・・」


 いや、原因は分かっている。事あるごとに3人が騒ぎ、俺に飛び火してきて精神的に疲れるからだ。まだ旅行初日だというのに精神的疲労が大きい。おかげで酔いも少し覚めてしまっている。

 ちなみにだけど絵菜、莉緒ちゃん、彩音さんの3人は再びゲームで遊んでいる。絵菜と彩音さんに至っては結構お酒を飲んでいたはずなのに今も元気にレースゲームをプレイしていた。絵菜が比較的お酒に強いのは知っていたけど、彩音さんもかなり強いのかもしれない。


(もう少し酔いを覚ましたら風呂にでも行くか)


 あの様子だと3人はしばらくゲームに集中するだろうから今のうちに風呂にでも入っておくのが良さそうだ。そう考えて30分程スマホでゲームをしながらゆっくりした後に着替えとタオルを持って風呂場へと向かう。

 案の定、風呂場の脱衣所(ここも広さが旅館並)には誰かが入っている様子は無く、服を脱いでいざ風呂場の中へ。

 まずは頭と身体を洗ってスッキリさせた後に掛け湯をして浴槽へと入る。


「おぉ~、良い湯だ」


 家で入るよりも温度は少し高めだけど良い湯加減で温泉独特の匂いも漂っている。

 あまりの気持ち良さでいつまでも浸かっていたい気分になる。1日の疲れも取れていくような気がしてくる。

 しばらく浴槽に浸かった後、露天風呂の方も行ってみる事にする。

 浴場の扉を開けると露天風呂が姿を現し、辺りには湯気が立ちこめている。

 備え付けの桶で掛け湯をしてから露天風呂へと浸かる。


「これも良いな」


 湯の温度は体感だと浴場にある浴槽とほぼ変わらない。木製の塀で囲われているので周りの景色はほとんど見えないけど、見上げれば一面に星空が広がっている。

 今住んでいる地域も空を見上げれば星空は見えるけど、こうして露天風呂に入りながら眺めるのは何とも贅沢な気分になってくる。

 しばらく星空を堪能していると、ガラガラという扉を開いたような音が聞こえた。嫌な予感がして視線を向けてみると、


「やっほ〜♪」


 片手を振りながら笑顔を浮かべるバスタオルを巻いた絵菜の姿があった。


「おい、何でここに居るんだ?」

「もっちろんお兄ちゃんと一緒に入りたかったからに決まってるじゃん♪」

「いやダメだろ!」

「どうして?家族なんだから一緒に入っても大丈夫!だいたい一緒にお風呂に入った事あるじゃん」

「それは絵菜がまだ小さい時の話だろ!」

「まあまあ良いじゃん。ちゃんと水着は着てるから」


 そう言ってハラリと身体に巻いているバスタオルを取り、赤いビキニを着ているというアピールをする。


「絵菜が良くても俺が良くないんだ!」


 対する俺は当然ながら全裸であるので、咄嗟に近くに置いていたタオルで下腹部を隠す。マナー違反ではあるけど、これは仕方がない処置だとして後で謝っておこうと思う。


「お邪魔しま~す」

「許可した覚えはないが?」

「気にしない気にしない♪」


 絵菜は掛け湯をしてから隣に腰を下ろしてくる。


「う~ん、良いねぇ〜」

「まったく、いつも強引なやつだ」

「ふふん、お褒めいただき光栄です♪」

「褒めてないからな?」


 俺の言葉は聞き流して大きな伸びをする絵菜。こうなってしまってはもはや絵菜を強引に退去させる事は出来ないだろう。かといって俺が風呂から上がろうとしても止めてくるのは目に見えているのでこのまま一緒に入るしかなさそうだ。


「はぁ~、最近はどんどん時間が過ぎるのが早くなってる気がするな〜」

「そうだな・・・」


 俺もその点に関しては激しく同意である。社会人になってから年々時間が過ぎるのが早くなっている感覚がある。時間の流れ方は変わらないはずなのに学生時代とは感じ方がまったく違うのだ。


「アタシももう社会人になっちゃったし」

「ほんのこの前まであんな小さかったのにな」


 確かに絵菜が社会人になる程時間が過ぎたと思うとより実感が湧いてくる。


「もう、孫を見守るお年寄りみたいな事言わないでよ〜お兄ちゃんはまだ若いんだから」

「そうか?30代半ばはもう若くないと思うぞ」

「まだ人生の折り返し地点に来てないんだからまだまだ若いって〜見た目だって20代に見えるしカッコイイよ〜」

「家族の評価は参考にならないな」

「そこは素直に喜ぶところだって〜」

「妹に言われてもなぁ」

「ええ〜、アタシの評価は客観的な事実に基づいて言ってるのに〜お兄ちゃんのいけず!」


 プイっとわざとらしく顔を背ける絵菜。こういうところ小さい頃の絵菜のままだなと思って苦笑する。

 静かな雰囲気が流れたけど本気で絵菜が怒っている訳ではないと分かっているので、決して居心地の悪いものではない。

 再び星空を眺めていると、


「ねえ、お兄ちゃん」


 絵菜が不意にポツリと呟く。


「何だ?」

「アタシね、夢があったんだ〜」

「へぇ、それは初耳だな」

「お兄ちゃんには言った事ないからね〜」


 すると今まで明るかった絵菜の雰囲気が少し変わる感じがした。


「ホントは一度諦めたんだ」


 絵菜の発言を聞いて内心驚きながらも俺はこう訊かずにはいられなかった。


「どうしてだ?」

「う〜ん・・・一言で言うなら『求める理由がなくなったから』かな〜」

「理由がなくなった?それに『1度は』って事は」

「うん、もう一度夢を追ってるんだ〜だから今度は叶えてみせるよ、絶対に」


 普段滅多に見せることのない真剣な表情だからこそ並々ならぬ決意が宿っているのを強く感じた。


「絵菜がその気になればきっと叶えられるだろうな」

「お兄ちゃんは応援してくれる?」

「ああ、当然だろ」

「ふっふっふ、言質はもらったからね〜!」


 絵菜の表情に笑顔が戻る。何だかよく分からないけど気晴らしになったのなら良かったと思う。


「ところでその夢というのは何なんだ?」

「それは・・・な〜いしょ♪」


 そう答えると絵菜は露天風呂から上がる。


「ごめんね、せっかくの旅行なのにしんみりした話しちゃって」

「いや、絵菜とこういう話をするのは貴重だったし気にするな」

「さ〜すがお兄ちゃん、懐が深いね〜さて、アタシは浴場で入り直そうかな~」

「おい、今は俺が入ってるんだから俺が出た後にゆっくり入ったら良いだろ」

「じゃあね〜」


 いつも通り(?)俺の言葉は聞き流して露天風呂を去っていった。


「まったく、兄の言う事を中々聞かない妹だな」


 俺は苦笑を浮かべながら、もう少しの間露天風呂を堪能したのだった。

 浴場に戻った頃に周囲を見てもすでに絵菜の姿はなかった。




「・・・今度こそ叶えるから、お兄ちゃんのために」

いつもお読みいただきありがとうございます。

そして読者の皆様、遅ればせながら明けましておめでとうございます。

ちょっと休み過ぎたのでそろそろ更新をしていこうと思います。

今年の目標は本作に一区切りをつける事、そして新作を連載する事です。


今年もよろしくお願いします。

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