第84話 旅行3
お待たせしました。今回は少し短めです。
静岡県熱海市。
伊豆半島に位置しており、相模湾に面しているこの都市は日本で有数の温泉地として有名である。同様にリゾート地としても人気であり、数多くの別荘が建ち並んでいる。
「家族全員温泉が大好きでして、元々は毎年温泉巡りをするために別荘を建てたのですよ」
という経緯があった事を彩音さんは説明する。
(うん、分からん)
というのが俺の感想である。別荘の維持費だけでもかなり掛かるはずなので、その時期にしか行かないというのなら旅館やホテルを取れば良いのでは?と思ってしまう。
「最近ではお祖父様が定期的に通っているみたいで結構私物とかも持ち込んでいると聞いています」
彩音さんのお祖父さんという事は『木漏れ日』のマスターだな。温泉好きとは知らなかった。
途中に休憩を2回挟んで雑談をしながら車中の旅を楽しんでいると、車外の景色が変わってきた。
「わぁ、旅館やホテルが増えてきましたね!」
今は隣りに座っている莉緒ちゃんが歓声を上げる。どうやら熱海に入ったようである。
「熱海かぁ〜初めて来るね、お兄ちゃん!」
「ああ、そうだな」
両親は旅行好きだったので定期的に家族旅行に行っていたけど、熱海はまだ来た事が無かったな。
「皆様、間もなく目的地に到着いたします」
それを裏付けるかのように志波さんが声を掛けてくる。しばらくすると別荘らしき建物がチラホラ見えるようになってきて、やがて一軒の別荘の前に車が停車する。
「到着しましたね」
彩音さんの言葉とともに電動ドアが開き、全員が車外へと降りる。
「お、大きい・・・」
莉緒ちゃんが大きく目を見開くのも無理はない。立派な門、門の先にある広大な庭と見ただけで大きいと分かる2階建ての建物があるのだから。
「約千坪ありますね」
「せ、千・・・!?」
莉緒ちゃんが驚きのあまり声を失ってしまっているけど、俺だって驚いている。約千坪となると約3300平方メートル、つまり単純計算で60×50メートルよりも大きいと言うと想像が付くだろうか?正直言ってこれが別荘なんて信じられない。豪邸を訪問するみたいなテレビ番組で出てくるものと遜色ないように見える。
「私はこんなに広くなくてもと言ったのですけどね」
彩音さんが苦笑しながら話しているけど、話の次元が明らかに一般庶民レベルではない。ここの別荘の値段は絶対に聞かないでおこうと思う・・・
「さぁ、暑いですし中に入りましょう」
彩音さんの一言で門をぐった俺達は志波さんに連れられて今回お世話になる別荘の中へと入る。
「やっぱ広いな・・・」
玄関、というよりはもはやエントランスと言って良い。エントランスの先には広い廊下といくつかの部屋の入口が見え、右手には2階へと上がる階段がある。別荘ってログハウスのイメージを思い浮かべていたいたけど、造りは普通に一軒家と変わらない感じである(広さは別格だが)。
ちなみに別荘の中が最初から涼しかったのはあらかじめ管理をしている人が空調を入れていたかららしい。
「こちらがリビングでございます」
案内されたリビングもアパートとは比べ物にならない程に広い。しかも部屋にあるテレビは大きいし、ソファーやテーブル、絨毯に至るまで質の良い物だという事が見ただけで分かってしまう。だからといってあからさまな派手さが無い辺りセンサの良さを感じる。
まだ廊下とリビングしか見ていないけど、きっと他の部屋も同じような感じなのだろう。
「そういえば旅行中の予定って何か決まってるのか?」
よく考えたら別荘に行くという話だけしか聞いてなくて内容までは何も聞いていなかった事に気付く。そもそも行き先すら知らなかったし、完全に人任せになっていたな・・・
「基本的に別荘に来る時はゆっくりと休むのが目的ですので、あまり頻繁に出かけるという予定は立てていません。一応明日は海で遊ぶのと明後日の夜は花火大会に行こうかと思っています」
「へぇ、熱海も花火大会があるのか」
夏になると近所でも大きめの花火大会があるけど、ここ最近は観に行けていないな。
「ええ、夏の時期だけではなく年に数回開催されています」
「それは楽しみだ」
「私も同じです。それに今年は・・・」
そう呟く彩音さんの表情にはどこか感慨深さが浮かんでいるように見えた。
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