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第83話 旅行2

お待たせしました。

「おはようございます、皆さん」


 彩音さんが朗らかな笑顔で挨拶をしてくる。


「おはよう」

「おはよ〜」

「おはようございます」


 こちらも挨拶を返したところでまずは気になった事を訊いてみる。


「彩音さん、そちらの方は?」


 すると初老の男性が一歩前に出てきて深々とお辞儀をする。


「皆様、お初にお目にかかります。今回のご旅行のサポートをさせていただく志波と申します。以後お見知りおきいただくと幸いでございます」

「志波さんは私の家の使用人で、今回は車の運転をメインとして様々なサポートをしてもらいます。何かご相談事があれば気軽に声を掛けてくださいね」


 彩音さんが補足するけど、まさか使用人だとは思わなかったので驚く。以前から彩音さんの家が裕福そうなのは予想出来ていたにしても、思っている以上なのかもしれないな。


「ではそろそろ」

「差し支えなければ皆様のお名前をお教えいただけませんか?」


 なぜか彩音さんの言葉を遮って志波さんが訊いてくる。どうしてだろうかと内心不思議に思ったけどとりあえず答える事にする。


「神白弘人と言います」

「神白絵菜で〜す!よろしく〜」

「祭川莉緒と申します。数日間お世話になります」


 すると志波さんは「なるほど・・・」と納得したように頷くと彩音さんへ意味ありげな視線を向ける。対する彩音さんはそっと視線を反らして目が合わないようにしていた。益々意味が分からない。


「ありがとうございます。人数は彩音お嬢様から聞いておりましたが、詳細までは存じておりませんでしたのでお伺いした次第でございます」

「もう、お嬢様呼びは止めてと以前から言っていたはずだけど?」

「わたくしめにとってはいくつになってもお嬢様なのですよ」

「・・・はぁ、早く行きましょ」


 と言って彩音さんはさっさと場を離れてしまった。こんな場面を見るのは何とも珍しい。


「では皆様、こちらへどうぞ」


 何事かもなかったかのように志波さんが案内すると、そこには1台の黒いワンボックスカーが停車していた。どうやらこの車で移動するらしい。


 志波さんが電動ドアを開けて中へ誘導しようとした時、


「ヒロさんは私の隣で良いですね?」


 彩音さんがそう呟くと、なぜか周りの空気がピリついた気がした。


「ダメでしょ」

「どうしてそうなるのですか?」


 絵菜と莉緒ちゃんが抗議の声を上げる。しかも2人共かなりの圧を感じる。


「道中は私がおもてなしをしようと思いまして」


 しかし彩音さんは怯む事なく平然と答える。


「そんなの妹のアタシがするから」

「いいえ、弘人さんをお世話するのは私の役目です」

「へぇ~、莉緒ちゃんも言う時は言うんだぁ~」

「時と場合によります」

「では主催者がおもてなしをするのは当然だと思いませんか?」


 と、あれやこれやと揉める3人。まだ出発前だと言うのにこの先が思いやられるな。志波さんなんかはどこか苦笑しながら事態を見守っているし。こうなったら、


「じゃあ俺が助手席に・・・」

「「「ダメ(です)!」」」


 言おうとした提案を声を合わせて拒否する3人。なぜここだけ息ぴったりなのだろうか?

 仕方無くしばらく3人の様子を見守っていると、


「・・・埒が明かないですね。では、公平にじゃんけんにしませんか?」


 彩音さんがそう提案をする。


「オッケ〜」

「分かりました」


 絵菜と莉緒ちゃんが賛成した事で3人はじゃんけんをする体勢に入る。雰囲気は先程よりも一層張り詰めたものとなっている。何で座席を決めるだけでこんなに時間が掛かるんだと言いたいけど、さすがに口に出したらダメなワードだと分かっているのでもはや見守るしかなかった。


「「「最初はグー、じゃんけんポン!」」」


 その結果は・・・




「よろしくお願いします、ヒロさん」


 どこかやりきった表情を浮かべながら、隣の座席に座る彩音さん。そう、あの戦い(?)を制したのは彩音さんであった。

 結局、助手席には誰も座らず2列目に俺と彩音さんが、後ろの3列目に絵菜と莉緒ちゃんが座っていた。ちなみに後ろは3人が充分座れるスペースがあったけど、きっと突っ込んではいけないのだろう。


「ちぇっ、負けたか〜ねえ、どうせ途中で休憩挟むんでしょ?そん時に席替えしない?」

「ええ、構いませんよ」


 絵菜の提案をあっさりと笑顔で受け入れる彩音さん。じゃあ最初にあれだけ揉めていたのは何だったんだと思ってしまう。ん?


「あれ?妙に2人共仲が良くないか?」


 ついこの前に絵菜が直談判(?)に行った時が初対面のはずなのに、お互いにどこか親密感があるように思えたのだ。


「それは・・・」

「アタシと同い年だからね〜この前会った時に意気投合しちゃって。ねっ」

「え、ええ、そうです」

「へぇ、そうだったのか」


 なるほと、だからあの時やたら時間が長かったんだなと納得する。というか彩音さんが絵菜と同い年という事を

 初めて知った。いくら知り合いとはいえ女性に年齢を訊くのは良くないだろう。


「皆様、そろそろ出発いたしますのでシートベルトを着用なさってください」


 会話が落ち着いたところで志波さんが声を掛けてくる。タイミングに気を遣っている辺り、志波さんの人柄が出ていると言える。

 全員がシートベルトを着用したところで車が動き始める。ようやく旅行が始まったと実感ができるな。


「そういえば別荘ってどこなんだ?」


 俺がそう訊くと、彩音さんは笑顔を浮かべてこう答えるのだった。


「熱海です」


 と。

お読みいただきありがとうございます。

中々旅行が進まない(笑)。

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