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第82話 旅行1

お待たせしました。旅行パート開幕です。

「おっはよ~!」


 まだ眠っていたところに何ともテンションの高い声が隣から聞こえてくる。


「んん・・・何だ・・・?」


 かなり大きな声だったので完全に覚醒はしていないものの目が覚めてしまった。


「何って朝の挨拶じゃん!」


 そう答えたのは妹の絵菜である。昨日の夜突然現れていつものように泊まりに来ていたのだ(当然のように隣で寝ていた)。理由は今日から旅行だから朝の集合時間に遅れないためらしい。


「朝って・・・まだ薄暗いぞ」


 窓を見てみると外から入ってくる光は弱く、まだ日の出になるかならないかの時間帯だろう。実際に時計を見ても、


「まだ5時になってないじゃないか」


 予想通りというべきか時間は4時40分。明らかに朝とはいえない時間帯である。


「え〜もう朝だって〜早起きは三文の徳って言うじゃん」

「早すぎるわ!だいたい集合だって10時だぞ?こんなに早く起きてどうするんだ」


 今日の集合時間は午前10時で場所はアパートの駐車場である。今からだとまだ5時間以上後である。


「アタシはこれから朝食の準備をするよ〜」

「朝食?絵菜が作るのか?」

「うん!久しぶりに可愛い妹の手料理が食べられて嬉しいでしょ?」

「自分で可愛いってよく言えるな」

「だって事実だもん。アタシだって美容にはすごく気を遣ってるんだよ?」


 自信満々に答えられるのがすごいな。まあ可愛いというのは贔屓目を抜きにしても事実なので否定はしないけど。そういえばどこかの後輩も同じような事言ってたな。性格が少し似ているからか?


「それは知ってる。じゃあ久しぶりに可愛い妹の手料理を堪能させてもらうか。莉緒ちゃんには話したのか?」

「勿論!昨日のうちに言っておいたよ~」


 この辺りの抜かりが無いのは絵菜らしさを感じるけど、ここでふとある事に気付く。


「ん?よく考えたら俺は何で起こされたんだ?」


 時間が少々早すぎるにしても絵菜が朝食の準備をするために起きたのは分かる。だが俺まで起こされる必要は何も無かったはずである。


「調理している間が退屈だから、その間お兄ちゃんに話し相手になってもらおっかな〜なんて」

「おい、そんな理由で俺を起こすんじゃない」

「だってこうでもしないとお兄ちゃんと2人きりで話出来ないじゃん」


 確かに最近は莉緒ちゃんが同居しているし、実家にも帰っていないから絵菜と2人で会話する時間は少なくなっている。昔から俺に懐いていたから寂しさを感じているのかもしれない。


「はぁ、仕方無いな」

「やったっ、お兄ちゃん大好き♪」

「こらっ、いきなり抱き着くんじゃない!」

「あははっ、やっぱりお兄ちゃんの匂いは落ち着く〜」


 俺の胸で頬をスリスリさせながら至福の笑みを浮かべる絵菜。ダメだ、全く話を聞いていない。社会人になっても兄離れが出来ていないから少し心配になってくる。

 しばらく抱き人形(?)になった後、絵菜はようやく調理を開始する。近況や実家の話を聞きながら雑談しているうちに光が差し込んできて、同時にガチャっと扉を開けた音が聞こえてくる。


「おはようございます、弘人さん、絵菜さん」


 莉緒ちゃんがリビングに来て挨拶をしてくる。


「おはよう」

「おはよ〜朝食出来るまでまだ時間掛かるから待ってて〜」

「あ、はい、大丈夫です。あの、何かお手伝いしましょうか?」

「ん~ん、アタシ1人でするから要らないよ〜」

「わ、分かりました」


 う〜ん、今の会話を聞いてるだけでもやっぱり莉緒ちゃんが絵菜に対して必要以上に気を遣っている感じがする。


「すまない、朝から騒がしくて」

「いえ、もう起きていましたから」

「そうなのか?」

「はい、いつもだいたい5時過ぎには起きていますね」


 マジか。確かに俺が起きた時にはいつも莉緒ちゃんが朝食の準備をしていたけど、まさかそんなに早く起きていたとは思わなかった。


「言っておきますけど、私が好きでやっていますので気にしないでくださいね」


 俺の言う事を先回りしたかのように莉緒ちゃんが答える。最近は俺の思考を読み取られる場面が増えた気がする。そんなに言動が分かりやすいだろうか?

 リビングで莉緒ちゃんと雑談していると絵菜がテーブルに次々と料理が並べていく。ご飯、味噌汁、焼き魚、ほうれん草のおひたし、煮物と和食のラインナップである。


「随分豪華だな」

「そう?ささっ、暖かいうちに召し上がれ〜」

「そうだな、食べるとするか」


 3人が腰を下ろしたところで一斉に「いただきます」と声を上げる。

 俺は最初に煮物の大根を箸で持ち口に運ぶ。


「おお、美味い!あの短時間でこれだけ味が染みるとは」

「ちょっとしたワザを使えば短時間でも結構良い感じに仕上がるよ~」

「本当ですね、すごく美味しいです・・・!」

「でしょ〜」


 莉緒ちゃんが驚きの表情を浮かべながら次々と料理を口に運んでいく。


「・・・すごい、どれも味付けが完璧に調整されています」

「あはっ、分かってくれた?」

「悔しいですが・・・私も負けていられません!」


 絵菜はドヤ顔をしているし、莉緒ちゃんは悔しげな表情を浮かべながらもどこか気合いを入れたように見える。俺から見ると一体どういうやり取りが展開されているのかさっぱり分からなかった。

 朝食を食べた後は3人で片付けをして、雑談をしながらゲームをしているとあっという間に集合時間が迫ってきていた。


「さて、そろそろ出るか」

「はい!」

「りょ〜かい!」


 それぞれキャリケースを持ち、部屋を出て集合場所へ行くと彩音さんと初老の男性が立っているのだった。

お読みいただきありがとうございます。

※題名を『旅行初日1』→『旅行1』に変更しました。

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