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第80話 父娘のひととき(莉緒視点)

お待たせしました。

「お父さん、ご飯出来たよ〜」

「おう!今行くぜ!」


 晩御飯の準備を終えてお父さんを呼ぶと、今にも跳び上がりそうなくらい上機嫌な様子でやって来ます。


「やった!今日はカレーか!」


 カレーはお父さんの大好物です。久しぶりに帰ってきたので好きな料理にしようと思っていましたけど、案の定すごく喜んでくれています。


「いただきます!」


 お父さんは素早くスプーンを取ると、すごい勢いで掻き込み始めます。時折むせそうになっているので、


「急いで食べなくてもカレーは逃げないよ」


 と言っても「おう」と一言呟くだけで勢いは止まりそうにありません。

 結局その勢いのまま3杯おかわりして終始満足気に食べていました。


「ふう、もう腹一杯だ〜!いやぁ〜久しぶりの莉緒のカレーは格別だなぁ!」

「大げさだよ」

「大げさじゃねえって。このために俺は生きてるんだ!って気になるぜ」

「ホントに調子良いんだから・・・」

「へっ、莉緒に会えたら俺は元気百倍になるんだぜ!」


 笑顔で答えるお父さん。私の事になると行き過ぎた言動が増えて呆れたり困ったりしますが、お父さんの事は好きです。面と向かって言うと調子に乗るに決まっていますので絶対に言わないですけど。


 私の前ではほとんど笑顔を欠かす事のないお父さん。でも、その笑顔の裏には並々ならぬ苦労があったのだと思います。

 私が生まれて間もなくお母さんが亡くなった事は聞いていますが当然記憶がある訳も無く、悲しいという感情よりも今ひとつ実感が湧きませんでした。

 でもお父さん違う。愛する人を亡くした時のショックは私の想像に及ばない程大きいはずです。

 そんな状況にも関わらずお父さんは私を男手一つで育ててくれました。弘人さんから当時は全く家事が出来なかったという話を聞いていますし、それだけでも相当苦労があったのだと想像出来ます。


 私が家事を始めたのも幼いながら少しでもお父さんの負担を軽くしたいと思ったのがきっかけです。最初は大変でしたが、一通りこなせるようになってからはほとんど苦に感じなくなりました。今ではほとんどの家事をしてきますし、何より家事が出来て本当に良かったと実感しています。なぜなら・・・


「そういえば弘人との生活はどうだ?何か進展はあったか?」


 私が考え事をしていると、お父さんが不意にそう訊いて来てドキッと心臓が高鳴ります。


「えっ、いきなりどうしたの?」

「どうしたも何も俺の親友と仲良くやってんのか気になるだろ」

「・・・べ、別に普通だから」


 私がそう答えるとお父さんはあからさまに溜め息を吐いてきます。


「何だよ、4ヶ月近く経つってのに進展無しかよ。以前に弘人なら許すって言っただろ?一気に攻めちまえば良いのに」

「そんなに簡単じゃないの!」


 私は思わず大声を上げてしまいます。親に恋愛事情を訊かれるのがどれだけ恥ずかしいのか分かっているのでしょうか?こういうデリカシーに欠ける性格は直してほしいです。


「あいつは鈍感だが結構モテる。早くしねえと他の女に取られるかもしれねえぞ?」

「・・・・・・」


 お父さんに痛い所を突かれます。確かにライバルは知っているだけでも3人居るので、現実になる可能性があったりします。


「何だぁ?もしかして弘人に好意を持ってる女が居やがるのか?」


 こんな時に限って鋭い。私の表情から何となく察したのかもしれません。


「はっ、あいつの無自覚たらしは今に始まった話じゃねえしな。それでも彼女が出来ねえのは鈍感さだけじゃなく、強力なストッパーが居たってのもあるが」


 お父さんの言う『強力なストッパー』には心当たりがありますね・・・


「おっ、ひょっとして知ってる感じか?超絶ブラコンな妹の存在を」


 またしてもお父さんに読まれてしまいました。私って実は表情に出やすいのでしょうか・・・?


「絵菜さん、ですね」

「そうそう、昔から弘人にべったりでな。俺が弘人と遊ぶ時や莉緒の面倒を見てもらおうとした時なんかは毎回目の敵にされてて困ったもんだぜ」


 なるほど、と私は思いました。初めて絵菜さんに会った時にお父さんに対して印象が良くなさそうな雰囲気を感じましたが理由が分かりました。


「その様子じゃあ変わってないみてえだな。莉緒も注意しろよ?高校時代にまだ小学校低学年だった弘人の妹が10近く年上の女子に脅しを掛けてる現場を見た時は戦慄したぜ」


 絵菜さんって昔からあんな感じだったんだと、2人きりになった時の事を脳裏に浮かべながら思いました。


「あの圧はとてもじゃねえけど小さい子供が出せるようなもんじゃなかった。今でも超絶ブラコンが続いてんのなら昔よりもヤバくなってんのは確実だぜ」

「う、うん、気を付ける」


 と、言ってみましたがどう気を付けて良いのか分かりません。もう目を付けられていますし・・・


「おう、そうしてくれ!」


 ちょうどタイミングも良いですし、絵菜さんの話題は終えましょう。これ以上聞くと絵菜さんに苦手意識を持ってしまいそうです(※すでに苦手意識を持っている事に気付いていない)。


「ところでお父さんの出張はいつ終わるの?」

「あ?同居生活がいつ終わるのか気にしてんのか?」

「そうじゃなくて、私の想像よりも長い出張になってるから・・・」

「俺だってこんな長くなるとは思っちゃいなかったぜ!まったくあいつらときたら・・・!」


 そこからはお父さんの愚痴がしばらく続きました。やっぱり大変なんだなとしみじみ思いながら、お父さんを時折宥めつつ久しぶりの父娘の夜は更けていくのでした。

お読みいただきありがとうございます。

後輩ヒロインの仙堂佐奈をイメージしたイラストを作成しましたので、興味のある方は活動報告のURLからご覧ください!

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