第78話 襲来、再び
お待たせしました。
誠也から帰省の連絡が来て数日後、俺の体調もすっかり良くなって夕食後にリビングで寛いでいるとインターホンのベルが鳴る。
「こんな時間に誰だ?」
宅配便は特に頼んでないから考えられるとすれば彩音さんだろうか?
モニターで外を見ても誰も居ない。もしかしてイタズラかと一瞬思ったけど、態々アパートの奥にあるこの部屋でするのもおかしい。
首を傾げながら階段を降りて玄関の扉を開けても誰も居ない・・・と思いきや、
「わっ!!」
「うおっ!?」
突然人影が目の前に飛び出してきて大声を上げたので思わず仰け反る。
「あはははは!大成功!」
目の前で大笑いしているのはとても見覚えのある、というか我が妹の絵菜であった。
「何が大成功だ!びっくりしただろうが!」
「ごめんごめん、つい出来心でやっちゃった♪」
テヘっとあざとい笑みを浮かべる絵菜。昔はこんなイタズラをしなかったのにどうしてこうなったのだろう。
「まったく・・・で、こんな時間にどうした?」
「そろそろお兄ちゃん成分が足りなくなってきたから補給しに来ました!あとついでに泊めて〜」
出た、謎のお兄ちゃん成分とやらが。しかもさらっと泊まりを要求してきている辺り図太さは相変わらずである。
「いつも突然すぎるぞ」
「そう?あ、お父さんとお母さんには連絡済だから安心してね」
ダメだ、会話が成立しているようでしていない。断られる事なんかこれっぽっちも考えていない言い方である。
その時、莉緒ちゃんが階段から降りてきた。
「弘人さん、どなたが・・・あっ」
「やっほ~久しぶり」
「え、絵菜さん、お久しぶりです」
ん?莉緒ちゃんからどこか緊張感が漂ってきているのは気のせいだろうか?
「今日泊まるからよろしく〜」
「は、はい、よろしくお願いします・・・」
「おい、まだ許可した覚えはないぞ」
「良いじゃん別に。断ってもアタシが居座るの分かってるくせに〜という事でお邪魔しま〜す!」
絵菜は俺の横をスルリと通り抜けて階段を昇っていった。
「すまないな、自由な妹で」
「い、いえ、私も絵菜さんに会えて嬉しいので」
その割には表情が強張っていたように見えるので、本音かどうかは怪しいところである。
まあ絵菜の言うように仮に断ったとしても押し切られるのは目に見えている(実際に今押し切られたので現実になっている)。
俺は溜め息を吐きながら莉緒ちゃんと階段を昇っていくのだった。
「夕食はもう食べたのか?」
俺は隣に陣取って寛いでいる絵菜に聞く。しかもしれっと腕に抱き着いて一向に離れる様子は無い。
「うん、外で食べてきた〜あとはお風呂に入ってお兄ちゃんと寝るだけ!」
「また隣で寝るつもりか」
「ん〜、ていうか一緒の布団で寝ようよ〜」
「いや、この年になって一緒に寝るのはおかしいだろ」
「年なんて関係ないって〜仲さえ良ければ一緒に寝てもダイジョーブ!」
「大丈夫じゃない。とにかくせめて隣で寝るように」
「ちぇ〜、つまんないの〜」
ぷくりと頬を膨らませる絵菜。社会人になっても未だに兄と一緒に寝ようと言う妹って居るのか?この調子で果たして兄離れが出来るのだろうかと心配になってくる。
だからといって『彼氏の1人でも作らないのか』と言うと機嫌がすこぶる悪くなるのは経験済みなので、態々地雷を踏むような真似はしないが。
「あ、そういえばお盆休みは実家に帰って来れるの?」
何気なく聞いているように見えるけど、抱き着かれている腕がギュッと強く締め付けられているのでかなりの圧を感じる。
何も無ければ帰れるのだけど、あいにく今回は予定が出来てしまっている。しかし何とも言い難いな・・・とはいえ下手に嘘を吐くと余計に機嫌が悪くなるので正直に答えるしかない。
「いや、帰れない。実は知り合いの別荘に行くことになってな」
そう答えた瞬間、腕がさらに強く締め付けられる。『ギュッ』、ではなくもはや『ギチギチ』という擬音すら聞こえてきそうだ。
「はぁ?何それ聞いてないんだけど」
絵菜の声が途端に低くなる。ヤバいな、相当機嫌が悪くなっている。これは慎重に答えないと後が怖い。
「すまない、誘われた時に予定が特に入ってなかったんで行けると答えたんだ」
「・・・へぇ、誰と行くの?」
少し間がある辺り、怒るのを堪えていそうな雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。ここまで機嫌が悪くなるのは俺が実家を出ると言った時以来だろうか。
「俺と莉緒ちゃんとその人の3人だな」
「ふ~ん・・・で、その知り合いっていうのは男?まさか女じゃないよね?」
雰囲気からして本当の事は答えたくない。しかし嘘を言うのは後々もっとヤバくなる予感があるので正直に答えるしかない。
「いや、女性だ」
そう答えた瞬間に絵菜の瞳からハイライトが消え、感情が抜け落ちたかのように無表情になる。しかと腕の締め付けがもはや声を上げたくなる痛みを感じる程に強くなっていく。
「・・・誰、その女?名前を言って」
「ひっ!?」
ああ、タイミング良く(?)リビングに戻ってきた莉緒ちゃんが怖がっているじゃないか。
これは言わないと明らかにマズイけど、言ったとしても何らかの危害を加えてしまうんじゃないという雰囲気が漂っている。これはあの時に匹敵するくらいだ。
しかし両方を天秤にかけた時に傾くのは・・・やはり言う方だろう。
「・・・空町彩音さんだ」
どんな反応をするかと身構える。しかし、絵菜の反応は意外なものであった。
「空町・・・彩音・・・?」
腕の圧力が急になくなり、表情もどこか呆然としたものに変わる。一体どうしたんだ?
「ちょっと待ってて」
そう呟くと絵菜はフラッと立ち上がり、階段を降りて部屋から出て行ってしまう。
「え、絵菜さん何かあったのでしょうか?」
「いや、俺も分からない・・・」
彩音さんの名前を出してから様子が明らかに変わったので、そのせいだと思うけど理由が全く思い浮かばない。
その後はしばらく待っていても中々帰って来ず、結局姿を見せたのは約30分後であった。そして、
「アタシも一緒に行くから」
と、告げると再び俺の隣に座って腕を抱き締めてくる。
「えっ、突然何を」
「許可はちゃんともらったから」
俺の言葉を遮ってピシャリと言い放つものだから内容を吟味するのに少し時間を要してしまった。
「もしかして彩音さんの部屋に行っていたのか?どうして場所が」
「だって隣の表札が『空町』ってなってるのが見えたもん。そんな珍しい名字で誘った本人と違うってのは無いでしょ」
「ま、まあそうだな。だけど」
「迷惑は掛けてない。言ったら快くオッケーしてくれたから。まさか一緒に行くのを止めろなんて言わないよね?」
絵菜に再び腕を強く締め付けられる。『快く』という割には随分と時間が掛かったような・・・しかし、これを突っ込んだらマズイのはさすがに分かる。
「いや、許可をもらったのなら何も言う事は無い」
今の様子を見ると、もはやこう答えるしか選択肢は無かった。
「あと、今日は一緒の布団で寝てくれるよね?」
これについてもどうやら選択肢は1つしか無さそうである。
結局、今日は一緒の布団で寝る事になったのだった。
幸いというべきか、次の日になると機嫌がほとんど直っていたのは唯一の救い(?)といえるだろう。
お読みいただきありがとうございます。
莉緒に続いて絵菜をイメージしたイラストを作成してみました!興味のある方は活動報告に貼り付けているURLから覗いてみてください!




