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第8話 会社の後輩

お待たせしました。新ヒロイン登場です。

「いってきます、か」


 莉緒ちゃんの見送りにどこか新鮮な気持ちになりながらも、行き先を会社の工場へと変更する。

 莉緒ちゃんの通う高校からだと車でだいたい20分程度の距離だ。

 いつもであれば8時過ぎに到着しているが、これからしばらくの間は少し遅くなるだろう。

 ただ莉緒ちゃんを送る事に全く不満はなく、むしろ仕事へのモチベーションが少し上がった気がする。

 何だか不思議な気分になりながらも、あっという間に会社の工場内へ到着する。

 車を駐車場に停め、更衣室までは徒歩で5分程度歩くことになる。

 更衣室に到着すると、ロッカーから作業着を取り出して素早く着替えて仕事場である事務所へと歩き進める。

 更衣室から事務所は近いのですぐに到着するが、いつもより遅い時間だったのですでに多くの人が出勤していた。

 俺は挨拶を交わしながら自分の席へと向かう。


「あっ、センパイおはようございますっ!」


 俺の隣の席に座っている後輩が目敏く見つけて挨拶をしてきた。

 こいつの名前は仙堂佐奈。入社2年目の社員であり、俺が現在教育係として色々と仕事のフォローをしている。

 身長は俺よりも10センチ程度低く、茶髪でショートボブの髪型、くりっとした目で顔立ちも整っており、どこかあどけなさが残る可愛さを持っている(本人に言うと調子に乗るだろうから絶対に言わないが)。


「ああ、おはよう」


 俺が席に着いてパソコンを立ち上げようとするが、構わずに仙堂は話し掛けてくる。


「今日は遅かったですね~。寝坊でもしたんですか?」

「いや、ちょっと用事が出来てな。しばらくはこの時間に出勤することが多くなる」

「え~、朝にあんまりお喋り出来ないじゃないですか」


 露骨なまでにつまらなさそうな態度をする仙堂。

 そういえば最近は朝から話掛けられている気がする。ただ、話の中身はだいたい俺を揶揄いに来るようなものが多い。

 配属してきた当初は素っ気無くて必要最小限の会話しかしてこなかったのだが、いつの間にかやたらと絡まれるようになってしまった。

 嫌われるよりははるかに良いのかもしれないが・・・。


「何で朝からお前の相手をしないといけないんだ」

「可愛い後輩と話をすれば元気が出てくるに決まっています!」

「自分で可愛いとか言うと自意識過剰みたいだぞ」

「だって本当の事じゃないですか~。センパイだってそう思ってるでしょ?」

「・・・ノーコメントだ」

「うふふ、素直に可愛いって言えばいいのに。センパイって恥ずかしがり屋ですね~」


 ニヤニヤと笑みを浮かべているのが非常に腹立たしいが、ここでムキになると余計に調子に乗るのは目に見えているので沈黙して耐えた。


「黙っていないで潔く・・・あれ?」


 今までイタズラっぽい笑みを浮かべていた仙堂が急に不思議そうな表情になったと思うと、俺の身体に鼻を近づけてくんくんと匂いを嗅ぎ始めたのだ。


「・・・な、何だ?」


 突然の不審な行動にたじろぎながらもようやく俺はその一言だけを口にする。その間もやたらと嗅いでくるが、仙堂の表情が徐々に険しくなっていく。


「・・・いつもとは少し違う匂いがします」

「はぁ?匂い?」


 俺は訝し気に仙堂を見る。試しに腕を近づけて嗅いでみるが、自分ではよく分からなかった。


「気のせいじゃないのか?」

「いいえ、私は嗅覚が鋭いので間違いありません!しかも男の人から匂うはずがないような甘い匂いなんですけど」


 仙堂の言葉を聞いて俺はハッとする。昨夜は莉緒ちゃんが隣で寝ていたので、その時に匂いが移ってしまったのかもしれない。


「何か心当たりがありそうですね?」


 俺を見つめる仙堂の目はどこか厳しく、心なしか機嫌が悪くなっているようにも見える。なぜだ?

 ただ、本当の事を態々言う必要は無いのでそれらしい理由を付けて誤魔化すか。


「多分部屋に芳香剤を置いたからだろう」

「芳香剤、ですか?」

「ああ。少し気分を変えようと思ってな」

「へぇ、そうだったんですか~」


 口調の割に表情が今ひとつ納得していない感じがする。どこかおかしなところがあっただろうか?


「でも匂いの種類が芳香剤って感じじゃないですけど」


 なぜこんな時に限って鋭いのか。仕事面でもその鋭さを発揮してもらいたいものである。とはいえここで狼狽えれば怪しまれるのでこのまま押し通すしかない。


「そうなのか?まあ適当に選んだからな」

「ふ~ん・・・」


 仙堂が考え込んでいるとちょうど良いタイミングで始業のベルが鳴ったのでどうにか追及を逃れる事が出来たのだった。




「センパイ、少しだけお時間良いですか?」


 仕事を始めてしばらく経った頃、仙堂が俺に声を掛けてきた。


「ん?どうした」

「見積依頼の仕様書が出来ましたのでチェックをお願いします」


 仙堂は数枚にまとめられた仕様書を俺の机の上に置く。

 ちなみにであるが、俺達が所属しているのは設備部門の電気課である。

 仕事内容としては大きく分けて2つある。1つは会社が所有する製造工場内の設備を新規導入もしくは改善するために電気的な仕様検討や設計を行い、内容に沿って工事業者に工事を依頼するというものだ。自身で工事を施工する事はほとんど無いものの、工事業者に工事を施工してもらう時は必ず立会いを行う。

 もう1つは工場内の設備でトラブルが発生した時にトラブル解決に尽力する保全業務である。

 今回仙堂が作成した資料は工事業者に工事の見積依頼をする際の見積依頼仕様書であり、工事業者に正確な情報を伝えるためにはこの資料の作り込みが重要となってくる。


「おう、確認するから少し待ってくれ」


 俺は仙堂が作成した資料を1枚ずつ入念に確認していく。仙堂は入社してようやく1年が経った頃なので

 今は小さな案件から徐々に業務に慣れてもらう段階である。見積依頼の仕様書作成自体もまだまだではあるが、仕事に対する熱意は決して低くない事が伝わってきた。


「仙堂、この箇所に使用するケーブルだが、ケーブルサイズを1つ上げてくれ」

「えっと、なぜですか?設備の電気容量とケーブルの許容電流は調べたうえで選定しましたよ?」

「ああ、それは分かってる。だがこのケーブル配線距離は100メートルを超えるはずだ。

 そうなると電圧降下の事も考える必要がある」


 電圧降下は供給元の電圧に対して供給対象へ与える電圧が低くなるという現象である。これは電源供給元の内部抵抗や送電するケーブルの抵抗により発生する。当然ながらケーブルの距離が長くなる程に電圧降下は大きくなり、下手をすれば設備の安定動作の妨げになる事もある。

 今回の場合は供給元の電圧を上げる事が出来ないので、ケーブルのサイズ(断面積)を上げて電圧降下を抑えるのが良いだろう。

 ただし、ケーブルのサイズを上げすぎると今度はコストが掛かるので注意が必要である。


「なるほど~、それは知りませんでした」

「ケーブルの配線距離が長くなる時は注意だな。あとは・・・」


 俺は他にいくつか気になる点を赤ペンで記載して修正をするように指示した。


「では仕様書を修正します」

「ああ、頼む」


 仙堂はパソコンに向き直り、真剣な表情で仕様書を修正し始める。

 仕事に関わらない部分はやたらと絡んでくる面倒なやつではあるが、いざ仕事になると真面目に取り組んでくれるし、教えた内容をすぐにでも吸収しようとする姿勢は好感が持てる。

 まだまだ未熟ではあるが、手際は悪くないし頭の回転も速いのであと1、2年もすれば独り立ちも出来るようになってくるだろう。


(なぜこの仕事を選んだのかは不思議だが)


 こういった設備関係の仕事は女性がほとんど居ない。そもそも年齢層からして大半が40代以上で若手の数が少なく、将来的な技術伝承の問題が浮き彫りになり始めている。

 会社としてもここ最近では設備関係の部署に毎年新入社員を配属させているのだが、仕事内容がきついのかすぐに辞めてしまうため若手社員の数が中々増えないのだ。

 そう考えると仙堂の存在がどれだけ貴重であるかが分かろうものだ。今のところ仕事のモチベーションは高そうで不満も聞いた事はないが、これから仕事の数が増えて内容も難しくなるとそうもいかないだろう。

 教育係としては精神面のケアもしておかなければならないと思っている。


(出来れば順調に育って長く勤めてほしいが・・・)


 パソコンの画面と真剣に向き合う仙堂の姿を一瞥してから、俺も自分の仕事に集中するのだった。

お読みいただきありがとうございます。

この前買った新作のカードですが、シングルで買うとかなり高そうでした・・・。

幸いあらかじめ4コン(全種類4枚ずつのセット)を予約して買ったのでかなり得した気分です。

デッキも組んでみましたがかなり強そうな感じでした。環境に入ってくるかまでは分かりませんが。

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