第75話 風邪1
お待たせしました。
『おにーさん今日は何して遊ぶ〜?』
『そうだなぁ、砂遊びでもするか』
『やった〜!砂遊び!』
『はは、◯◯◯◯◯は本当に砂遊びが好きだな。絵菜もそれで良いか?』
『うん!お兄ちゃんと一緒なら何でも良いよ!』
『なーちゃんはおにーさん大好きだね〜』
『そういう◯◯◯◯◯だってお兄ちゃん好きでしょ〜?』
『うん!好き〜』
『絵菜と同じだね!』
『同じ!』
『2人共好きと思っててくれるなんて嬉しいな』
『あ〜、おにーさん照れてる〜』
『2人のれでぃーに迫られてるもんね~!』
『ほら、早く砂遊びしないと時間が無くなるぞ』
『あっ、誤魔化した〜』
『誤魔化した〜』
『まったく・・・本当に2人は仲良しだな』
『『うん!』』
『おお、息もピッタリだ。よし、今日は砂の城でも作ってみるか!』
『『は~い!』』
「んん・・・」
目が覚めると、よく見覚えがあるアパートの部屋の天井だった。しかし俺の部屋ではない。
周囲を確かめようと身体を動かそうとしても鉛のように重い。頭痛もかなり酷く顔を顰める程だし喉も同様に痛い。
「お目覚めになりましたか?」
すると近くから聞いた事のある女性の声が。
「彩音さん?」
「こんにちは、ヒロさん。声はあまり出さなくて結構ですよ。喉も辛いでしょうから」
「ここは?」
「私の部屋のリビングです」
「なぜ・・・?」
すぐに疑問が湧き上がる。確か玄関の扉を開けて帰ってきたところだったはず。あれ、そういえば以降の記憶が無いぞ?
「大変だったのですよ?意識が朦朧としてほとんど力が入っていないヒロさんを私の部屋まで運ぶのは」
軽く笑みを浮かべながら話す彩音さんだけど、大の大人1人をここまで運ぶのはさぞ大変だっただろう。
ちなみに彩音さんの部屋に運んだのは俺を担いで階段を登れそうになかったからだそうだ。
今俺が使っている布団も彩音さんの備え付けを用意したらしい。
「すまない、迷惑を掛けたようだ」
「いえいえ、引っ越しの手伝いをしていただきましたのでお互い様ですよ」
彩音さんはそう言ってくれるけど、夕食をご馳走になったりお裾分けをもらったりしているのですでに充分過ぎる程だと思う。これは快復したら何かお礼をする必要があるだろう。
「莉緒ちゃんは?」
「彼女は今買い物に行ってますよ。弘人さんに元気の出るものを食べさせるんだと張り切っていましたね」
「そうか・・・」
莉緒ちゃんにも心配を掛けてしまったな。『同居させてもらっているので充分です』と言われる気はするけど、やはり何かしらのお礼は必要だろう。
「ヒロさんは気にせずゆっくり休んでください。後でお医者様にも来てもらいますから」
「それは、重ね重ねすまないな」
「あらかじめ言っておきますけどお金は要りません。家でお抱えの方を呼んだだけですので」
「ああ、分かった」
と答えるものの、内心ではお抱えの医者なんて普通は居ないと突っ込むのだった。
「ふむ、風邪ですな。雨に濡れて身体を冷やした状態と疲労が重なって免疫力が落ちたのでしょう。体温は38.1度と高めですが、栄養のあるものを食べて安静にしていればすぐに良くなります」
彩音さんが呼んだ医者の診断結果を聞いて、なぜか彩音さんがホッとしていた。
「そう、良かった。それと突然呼んで申し訳無かったわ、常磐さん」
「なに、彩音お嬢様の頼みとあればいつでもすぐに参上しますぞ」
「もう、お嬢様はやめてと以前から言っているじゃない」
「ほほ、別に減るものではないし良いではありませんか。さて、そろそろ失礼させていただきます。数日分のお薬を用意しておきますので毎食後に飲んでください」
「ありがとうございます」
「助かったわ」
「礼には及びません。では」
そう言って常磐さんと呼ばれた医者は帰っていった。
「ヒロさんは引き続き安静にしていてください。そうだ、今のヒロさんでも食べやすい果物を準備しましょう」
「あっ、お構いなく」
「遠慮なさらなくて良いですから」
それだけ言うと彩音さんは台所へと行ってしまった。彩音さんといい莉緒ちゃんといい、俺の周りには世話焼きな人が多い気がする。まあそのおかげで助かっているのでありがたい事は間違いない。
(体調は全然良くないな)
少し眠ったから帰宅中に比べて多少は気分が楽になっているけど、引き続き頭痛と喉の痛みは酷く身体もだるさを感じる。
そのせいもあって中々眠気は来ない。こういう時は何か別の事を考えて意識を逸らす方が良さそうだ。
(そうなると・・・)
先程見た夢に思いを馳せてみる。あれは過去にあった出来事なので正確には回想と言っても良いだろう。
記憶が正しければ確か俺がまだ高校生の時だったはず。当時は妹の絵菜の面倒をよく見ていて、ある時期から絵菜ととても仲が良かった子も加わって3人で色々遊んでいたのだ。
それが半年以上続いたのだけど、ちょうど今くらいの時期にその子はパッタリと姿を現さなくなった。
後に親の都合で海外へ引っ越していったというのが風の噂で聞こえてきたけど、当時は絵菜がしばらく落ち込んでいて俺も少し寂しさを感じていたっけ。
もう顔立ちも薄っすらしか思い出せないけど、今もどこかで元気にしているのだろうか。名前は知らないけど、絵菜が呼んでいた愛称は確か
「あーちゃん、だったな」
と俺がポツリと呟いた時、台所からガシャンと大きな音がした。
「彩音さん?」
「ごめんなさい、手が滑ってお皿を落としてしまいました。お皿も割れていないですし、怪我も無いので安心してください」
台所から少し頬を赤らめながら申し訳無さそうに頭を下げる彩音さん。お皿を落としたのが恥ずかしかったのだろうか?
彩音さんが再び台所で作業を再開した時に玄関の扉が開く音がした。
「お邪魔します」
そう言って姿を現したのは大きく膨らんだエコバッグを持った莉緒ちゃんであった。
お読みいただきありがとうございます。
昼夜の温度差が大きいので、皆さんも体調には気を付けてくださいね。




