第72話 後輩と出張5
お待たせしました。
「ダブルルーム1室だって?何かの間違いでは?」
一瞬耳を疑った俺は思わず聞き返すも、
「ご予約いただいているのはダブルルーム1室で間違いございません」
と、少し戸惑いつつもホテルの従業員ははっきりと答えた。
「えっ・・・あっ!すみませんセンパイ、私が間違えてました!」
隣に居る仙堂が予約情報を改めて確認して声を上げる。どうやら仙堂が予約内容を間違えていたようだ。
「あの、シングルルーム2室で予約はし直せますか?」
「確認いたします・・・申し訳ございません、シングルルームは満室となっております」
シングルルームは満室のようだ。そうなるとあとは・・・
「ではダブルルームをふた・・・」
「センパイ」
俺の言葉を遮るようにして仙堂が声を掛けてくる。
「どうした?」
「部屋は予約した内容のままで良いんじゃないですか?」
「え?それは良くないだろ」
「センパイの事だから私に気を遣って2部屋にしようとしてくれてるんですよね?もしそう思っているだけなら私は大丈夫です!すみません、予約どおりの内容でお願いします」
「お、おい・・・」
俺は止めようしたけど、仙堂は強引に手続きを進めてしまい部屋のカードーキーを受け取っていた。
「さ、センパイ早く部屋に行きましょ!」
そう言ってエレベーターへ歩を進める仙堂の後を俺は戸惑いながらも追ったのだった。
「センパイはすぐにお風呂へ入ってください!」
部屋に着くと仙堂は半ば強引に俺を押し込めるように浴室へと送り出した。
俺は濡れた服を脱いで浴室の中に入り、シャワーの水がお湯になったところで全身くまなく浴びる。
「ふう・・・」
身体に暖かさが伝わっていきホッと一息を吐く。
今日は疲れたな。まさか大雨で帰れずに仙堂と2人で同じ部屋に泊まる事になるとは誰が予想出来ただろうか。
『センパイ!シャワーだけじゃなくてちゃんと浴槽にお湯を張って身体を暖めてくださいね!』
浴室の扉の向こうから仙堂が俺に呼び掛けている。かなり気を使わせてしまっているな・・・
部屋へ行く途中で『同じ部屋にして本当に良かったのか?』と訊いても『大丈夫です!それよりも部屋に着いたらすぐにお風呂へ入ってください!』と言われるだけであった。どうやら手続きを強引に進めたのも俺を一刻も早く風呂に入れるためだったらしい。
そこにはいつもの絡むような様子が無く、只々俺を心配するような表情が浮かんでいた。
ここまで慕ってもらえているのは嬉しいけど、俺にしてみればどうしてこうなったのか心当たりは無い。俺みたいな中年男性と同じ部屋になっても嫌な顔1つする様子も無かったしな。
まあ考えても答えが出ない事をいちいち気にしても意味の無い事である。少なくとも俺が教育係でいる間は仙堂を1人前にするためにしっかりと導いていこう。
俺は仙堂に言われた通り浴槽にお湯を張って20分程浸かる。その後は浴室を出てコンビニで買った下着とホテル備え付けの白いナイトウェアを着てから戻ると、仙堂は俺のズボンをタオルで拭き取っているところであった。
「あっ、センパイ。身体暖まりました?」
「ああ、充分に浸かってきた。それよりも俺のズボンを拭いてくれてたんだな。ありがとう」
「いえいえ~、濡れたままにしておくのは良くないですから」
「ドライヤーは使わないのか?」
「あぁ〜、ドライヤーで乾かすのは生地が傷つくんで止めといた方が良いんですよ」
「へぇ、知らなかった。仙堂は物知りなんだな」
俺がそう言うと仙堂は一転して嬉しそうな表情を浮かべる。
「ふふん、もっと褒めてください!」
「おおー、すごいすごい」
「むう、褒め方が雑です!」
「いや、そこは普通謙遜するところだろ」
「センパイの普通と私の普通は違いますもん」
「もん、って・・・仙堂も身体が冷えてるだろうから早くシャワー浴びておくんだぞ」
「は~い、センパイのズボンを拭き終わったら行きますよ~」
それから仙堂は丁寧な手付きでズボンを拭き終わると浴室へ向かって行った。その際に『あっ、私が可愛いからって覗かないでくださいね〜』とニヤニヤしながら余計な一言を口走っていたので、『誰が覗くか。さっさと行け』と素っ気なく返しておいたが。
俺は手持ち無沙汰になり、スマホでゲームをしていると30分程経ったくらいに仙堂が戻って来た。
「はぁ~、サッパリしました〜」
「おう・・・っておい!」
俺は思わずツッコまずにはいられなかった。仙堂も同じく白いナイトウェアを着ているのだけど、胸元が大きく開いていて谷間が見えていたからだ。しかも上気で少し赤くなってるから余計に色っぽく見える。
「えぇ〜、何ですか〜?」
明らかに白々しい返答である。うん、これはデジャブを感じるぞ。
「胸元の露出が高すぎるだろ!」
「だってちゃんと着ると胸元がキツいんですよ〜あっ、もしかして欲情しちゃいました?」
ニヤニヤと笑みを浮かべる仙堂。こりゃいつもの揶揄いが戻ってきたな。
「目のやり場に困るんだよ!ていうか前も同じやり取りをしただろ!」
「私の部屋に来た時を思い出しました?さすがに記憶力が良いですね~」
「まだ最近の話だからな。はぁ、どうせ言っても変えないんだろ?」
「センパイもそろそろ『私』を分かってきましたね〜まあキツいのは本当なんでこのままにさせてもらいます。だからチラチラ見ても別に怒りませんよ?」
仙堂は引き続きニヤけた笑みを浮かべながらやたらと胸元を強調してくる。
「お前なぁ・・・俺がもし興奮して襲ってきたらどうするんだ?」
俺が仙堂と距離を縮めても余裕の笑みを崩さない。
「センパイが絶対にしないような仮定の話をされてもねぇ?ちなみに答えると『課長に報告する』です」
「最近何でもそう答えれば良いと思ってないか?もう俺は疲れたから寝るぞ」
「えぇ〜、せっかくなんでもっとお話しましょうよ〜」
仙堂の猫撫で声を無視して俺はベッドに入る。これ以上話しても頭が痛くなるだけだし。ん?というか本当に少し頭が痛い?
まあ疲れてるだけだろうと判断して目を瞑る。そのおかげもあってかすぐに睡魔が襲ってきてまもなく眠りにつくのだった。
お読みいただきありがとうございます。
一応後輩と出張シリーズは終わりです。次回は佐奈視点なので続いていると言えなくもないですが、表題は変わります。
最近TCGにお金を使いすぎている気がする・・・




