表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/93

第68話 後輩と出張1

大変お待たせしました。

「それじゃ、行ってくる」


 大きめのカバンを肩に掛けると莉緒ちゃんに声を掛ける。


「あっ、もうお出掛けになるのですね。お帰りはいつになりそうですか?」


 莉緒ちゃんがリビングのソファーから立ち上がり、俺の方へと近付いてくる。


「打ち合わせ次第だからちょっと分からないかな。帰れる時間になったらまた連絡するよ」

「夕飯はどうしますか?」

「う〜ん・・・、今日は外で食べる事にするよ」

「分かりました。お気を付けてください」


 少し残念そうな表情を浮かべた莉緒ちゃんが軽く手を振って見送ってくれるのを見て俺はアパートを後にする。


 まさか本当に仙堂と2人で出張する事になるとは・・・

 俺は数日前の事を思い出していた。




「2人には出張へ行ってもらう」

「「えっ?」」


 事務所へ戻ってすぐに墨山課長に呼ばれるとそう告げられた。

 しかし思い返してみても出張へ行くような案件は無かったはずである。

 その表情を読み取ったのかは分からないけど墨山課長は続けて口を開く。


「実は数日後にFA機器の専門展示会が開催される予定でね」


 FAというのはFactory Automationの略で生産工程の自動化を図るシステムの総称であり、これを担う機器をFA機器と呼ぶ。


「規模が大きくて最新の機器が並ぶから知見を深めてもらうのに良い機会だと考えている。特に若手の仙堂さんには良い経験になるはずだ」


 俺は墨山課長から案内が書かれた資料を見る。なるほど、確かに規模は大きいし今まで展示会に参加した事が無い仙堂のためにもなりそうである。

 おそらくメインは仙堂で俺は付き添いといったところか。


(開催場所は東京か・・・)


 新幹線を使う必要はあるけど、日帰りで充分に帰れる距離である。泊まりともなると莉緒ちゃんの事もあるし断る選択肢もあったけど、日帰りなら大丈夫だと思う。


 こうして俺と仙堂の日帰り出張が決定したのだった。




「おはようございます、センパイ!」


 駅に到着すると、すでに仙堂が改札口前で待っていた。


「おう、おはよう」


 挨拶を返すと突然仙堂がその場でゆっくりと一回転してみせる。一体何だ?


「どうですかセンパイ?似合ってますか?」


 そう聞かれて仙堂の行動がようやく理解できた。どうやら全身を見せたかったからのようだ。

 今日の仙堂は白のブラウスに黒いパンツのスーツスタイルである。上着は暑いのか脱いで腕に抱えている。


 う〜ん、何というか・・・


「絶賛就活中の学生にも見えるな」


 すでに社会人2年目ではあるけど、まだまだ初々しさは抜けておらず学生と言われても違和感が無いくらいである。


 しかし俺の素直な感想は求めていた内容では無かったらしく、仙堂は微妙な表情になった。


「えぇ・・・それって褒めてます?どう反応して良いか困るんですけど」


 まあ似合うかどうかという質問に対する回答とは違うから戸惑うのは当然か。しかし俺としてもどう答えて良いものか難しい質問だったのだ。

 就活中の学生にもと言ったけど、あくまでもそう見えなくもないというだけで実際は社会人寄りに見える。ただまだ若いし普段はスーツを着る機会がないので着慣れているという感じはしない。

 とはいえ、白のブラウスを押し上げている豊かな双丘は不釣り合いで何とも目のやり場に困るのだが。


「まあそこそこ褒めてるんじゃないか?」

「うわ~、絶対面倒臭くなってテキトーに答えましたよね!?何でも褒めれば女性が喜ぶと思ったら大間違いですよ!」


 ではどう答えるのが正解だったというのか。相変わらず仙堂の心情はよく分からない。

 それなら、と俺は思っていた事を口に出してみる。


「じゃあ俺のスーツ姿はどう思う?」


 スーツ姿といっても薄い水色のYシャツに黒のパンツのみで上着とネクタイはしていないから、そう言って良いのかは怪しいところだ。


「えっ?え〜っと・・・」


 まさか聞かれるとは思っていなかったのか、仙堂は顔を逸らして言葉に詰まる。心なしか頬も赤い気もするけど、きっと暑さのせいだろう。


「ま、まあ、新鮮に見えますね」


 しばらく考えた後に仙堂がポツリと呟く。


「そりゃ会社では着ていないから新鮮に見えるのは当たり前だ。ほら、仙堂だってまともに答えられてないじゃないか」

「・・・だ、だってカッコイイなんて恥ずかしくて言えないですよ」

「ん?何か言ったか?」


 仙堂の声があまりに小さくて聞こえなかったので聞き返してみると、


「あ、ああ~もう新幹線が来る時間ですよ!急ぎましょう!」


 誤魔化すように1人で駅内へと走り去ってしまった。


「お、おい、そんなに急がなくても・・・」


 良いじゃないかと続けようとした俺の言葉が途中で止まる。なぜなら腕時計で時間を確認すると、本当に新幹線が来る時間が迫っていたからだ。


「おいおいマジか」


 俺は急いで走り去った仙堂の後を追うのだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

ようやく大きな仕事が一段落したので少しずつ更新を増やしていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ