第56話 後輩との雑談と想い
お待たせしました。
「ありがとうございました〜」
一通り感想を言った後に仙堂がお礼を言ってくる。
「いや、むしろ礼を言うのは俺の方だ。どれも美味しかった」
「ふふん、これで私の趣味が料理だという事も分かってもらえましたね!」
「ああ、充分にな」
そもそも普段から自分で作った弁当も持ってきているし、もはや疑いようもないだろう。
「そういえばいつから料理が趣味になったんだ?」
「ん〜、本格的に趣味になったのは大学1年生くらいの時ですかね。当時は尊敬する先輩が居て、色々と教えてもらったのがきっかけだったと思います」
「へえ、尊敬する先輩が居たのか」
すると仙堂は当時を思い出したのか懐かしげな表情を浮かべる。
「すごい人でしたね〜。美人で頭も良くて運動も出来ましたし、家事全般も出来るらしくてまさに私の理想と言ってもいいくらいでした。当然すごくモテてもいて告白された数も相当多かったと聞きますけど、その全てを断っていましたね。彼氏が居るのかと思われていたんですけど、話を聞いてみると居なかったんです。ただ、想い人は居たみたいでその人のために自分磨きをしてると言っていました。結局どんな人なのかは教えてくれなかったですけど」
「余程その先輩が好きだったんだな」
「勿論です!今でもたまに連絡を取り合っているんですけど、社会人になってからはまだ一度も会えていないんです」
残念そうな表情を浮かべる仙堂。今までの様子を見ても相当会いたいに違いない。
仙堂の大学時代がどうだったのかと想像としているとある事を思い出す。
「そういえば妹が仙堂と同じ大学に以前通ってたな」
「えっ、そうなんですか!?」
「ああ、年から考えると仙堂の1つ上になるかな」
「センパイの妹さんかぁ〜一度会ってみたいです!」
テーブルの対面から身を乗り出してくる仙堂。しかも勢い良く乗り出してくるものだから豊満な胸がたゆんと揺れて目のやり場に困る。
「機会があったらな」
わずかに目を逸らしながら俺は答えるけど、幸い仙堂には気付かれなかったようだ。
「あ~出た出た、センパイお得意のはぐらかし!絶対に会わせる気が無いんでしょ!」
「会わせる気が無いっていうか、妹も社会人だから俺だってあまり会う事が無いんだぞ」
仙堂が言うように会わせたくないというのも本音ではあるけど口にはしない。言ったら言ったらで余計に騒ぎそうだし。
「じゃあ今度妹さんと会う時は私を連れて行ってください」
「いやいや、何で仙堂を連れて行かなきゃならないんだ。態々会社の後輩を紹介するっておかしいだろ!」
すると仙堂はニヤニヤした笑みを深める。
「私がセンパイの彼女ですって自己紹介しましょうか?」
「はぁ、何言ってんだ・・・。俺を揶揄うのがそんなに面白いのか?」
「勿論面白いです!最近ではセンパイの反応を見るのも趣味になってきましたね~」
「質の悪い趣味だ。是非とも止めてくれ」
「センパイが面白い反応をしなくなったら止めますよ」
まったく、ああ言えばこう言う困った後輩である。まあ嫌われるよりはましなんだろうけど、時々手に負えなくなるんだよな。
「その趣味とやらは他の人にしない方が良いぞ」
俺が苦笑しながら言うと、仙堂は満面の笑みを浮かべて
「安心してください、センパイ以外にはしませんから!」
と答えるものだからどう反応して良いのか分からない。
「あ、良い意味で言ってますからね?」
俺が少し困った表情をしていると、仙堂が付け加えるように行ってくる。
「そう聞こえないんだが?」
「あはは、でもセンパイには本当に感謝してます」
揶揄うような笑みではなく、どこかはにかんだ笑みを浮かべる仙堂。
「実は最初に配属された時、私結構不安でした。だって事務所に居る人の大半が私よりもだいぶ年上で、両親と同年代くらいの人も多かったですし」
仙堂の言う通り、設備部門に所属する人のほとんどが40代以上で俺のように30代以下の人数はわずかである。いきなり自分よりも一回り以上、下手をすると仙堂の両親よりも年上の世代と仕事をしていかなければならないとなると不安になるのは当然である。
「センパイが教育係だと紹介されて少しホッとしましたね。そんなに年上には見えなかったので」
「実際は一回り近く違うけどな」
「歓迎会の時に知ってビックリしましたよ」
「そうか?全然驚いたように見えなかったぞ」
確かに歓迎会の自己紹介で年を言ったけど、驚いている様子はなく淡白な反応だった気がする。
「表情に出していなかっただけですって」
「だいたい歓迎会で色々と話し掛けても淡白な反応だっただろ」
「そうでしたっけ?」
「ああ。しかも最初の2、3ヶ月はだいぶ素っ気ない態度だったぞ。何か嫌われるような事でもしたのかと結構気にしてたんだからな?」
教育係になるというのが初めてだったし、しかも女性となると尚更どう教えて良いか分からなかったらかなり慎重になった記憶がある。
「うぅ、それを掘り返さないでください〜!だいぶ失礼だったって反省してるんですから」
「だから急に謝られた時は驚いたな。同時に安心もしたが」
あの時に俺のやってきた事が間違ってはいなかったんだとようやく少し報われた気分になったんだよな。
「あんな態度は取ってましたけど、センパイが丁寧で分かりやすく教えようとしてくれているのはちゃんと伝わってましたよ」
「それなら良かった」
改めて言われると嬉しいものだと思っていると、急に仙堂が真面目な表情を作る。
「あ、あの、私センパイの事が、す・・・」
仙堂が一瞬言葉に詰まり、何かハッとしたような様子になると続きを口にする。
「すごく尊敬出来る人だと思ってます!」
「お、おう、ありがとう・・・」
面と向かって言われると何だか照れくさいな。仙堂が言葉に詰まったのもはっきり口にするのが恥ずかしかったからだろう。実際に仙堂の頬が少し赤くなっているように見える。
「あ、あれ〜、センパイ顔を逸らしてどうしたんですか〜?もしかして照れちゃいました?」
・・・と思ったけど気のせいかもしれない。なぜなら今の仙堂はいつも俺を揶揄う時の表情になっていたからである。
「おい、茶化すんじゃない」
「ふふふ、センパイかわい〜ですっ。でも尊敬しているのは本当ですよ?」
「まったく調子の良いやつだ」
時々俺を揶揄おうとする困った後輩だけど、どこか許せてしまうと感じるのは人柄によるところなのだろうか。
「あはは、これからもよろしくお願いしますね。特に次の仕事は大変なりそうですから」
「ああ、任せとけ」
こうして食後も仙堂と賑やかな時間を過ごすのだった。
[佐奈視点]
あ、危なかった〜!
センパイが帰った後、私はベッドの上で悶えていました。
「うぅ〜」
今思い出しても恥ずかしい!だって思わず勢いで『好き』と言いそうになっちゃいました!
直前で我に返って言い直しましたが、それでもセンパイを目の前に尊敬しているなんて口にするのは少し勇気が要りました。
でも言った事は本当だし、感謝しているという気持ちをはっきりと言葉にして伝えるべきだと思いました。
「告白は、まだしてはダメ・・・」
大きな仕事が控えている今は告白をするべきじゃありません。そうしなければ結果がどうであれ仕事に集中出来なくなるのは目に見えています。
・・・そう、決して日和ったわけじゃありません!
学生時代の友達が見たら『佐奈らしくない』笑われてしまいそう。
でもこんな気持ちになったのは初めて。センパイの事を頭に思い浮かべるととドキドキしたり温かな気持ちになったりします。
学生時代に恋だと思っていた感情が実は本気じゃなかったのだと今になって気付きました。
(まさか社会人になってから本気の恋をするなんて・・・)
本当に予想外。でも全然嫌な気持ちじゃない。
好きな人と一緒に仕事が出来る事に幸せを感じつつも、最近では少し物足りなくなってきたのも事実。
今日のようにプライベートでも一緒に居たいと感じ始めてきています。
ただあまり悠長に構えていると、莉緒っちのようなライバルに奪われるかもしれません。
それだけは絶対に嫌です!
「よしっ!」
恋も仕事ももっと頑張ろうと私は改めて決意したのでした。
お読みいただきありがとうございます。
気温が本格的に冬って感じになってきました。




