第51話 隣人
お待たせしました。
「あっ、おはようございます」
莉緒ちゃんが林間学校から帰ってきた翌日。今日は土曜日である。
いつもより少し遅い時間に起きてリビングへ行くと、莉緒ちゃんがテーブルに朝食を並べているところであった。
「おはよう莉緒ちゃん。朝食の準備をしてくれてありがとう。林間学校の疲れは残ってない?」
「はいっ。昨日はいつもより早く寝ましたし、特に疲れているという感じはないです」
莉緒ちゃんの表情を見る限りでは確かに元気そうである。俺くらいの年になってくると、旅行の疲れとかは1日寝たくらいじゃ完全に取れないんだよな。これも若さというべきか。
「それなら良かった。でも今日は家でゆっくりしようか」
「はい、そうします!」
莉緒ちゃんが笑顔で答える。どうやら今日も機嫌が良さそうで何よりである。
朝食を食べた後はリビングでのんびりとテレビを観る。隣には食器の片付けを終えた莉緒ちゃんが座っていて、今は本棚から取り出して来たであろうラノベを読んでいる。
う〜ん、いつもより距離が近いような感じがするけど気のせいだろうか。
まあ良いかと思いつつしばらく穏やかな時間を過ごしていると、外から何やら騒がしい音が聞こえてくる。
「何かあったのでしょうか?」
今まで読書に集中していた莉緒ちゃんも気になったらしく、ラノベから顔を上げて不思議そうな表情を浮かべる。
「う〜ん、何だろう?」
中には人の声が混じっているのも聞こえるけど、トラブルが起きたという様子ではなさそうである。
少しすると今度は下の方から物音がしてきた。下は別の部屋となっていて、今は誰も住んでいなかったはずである。
「!ああ、なるほど」
そこで俺は気付く。少し考えればすぐに分かる事であった。
「どうかしましたか?」
「外の音と下から物音がした理由が分かった。多分引っ越しだ」
「あっ、そういう事でしたか」
莉緒ちゃんも納得したような表情になる。
「ここはかなり人気の物件らしいから、部屋が空いてもすぐに埋まるんだ」
部屋は広くて周囲は閑静な住宅街。さらに家賃も10万円以内に充分収まるのだから人気というのも納得といえる。ただ、前に入居していた人が引っ越していったのは今から4ヶ月程前だから、期間的には割と空いていた方である。
「確かに部屋の中も良い感じですよね」
「うん。物件を探してる時にいくつか見て回ったけど、ここが一番良かったかな」
部屋の広さと状態、内装、家賃、場所といった色々な条件があった中でほぼ満足出来る物件だったと思う。
何せ物件探しに協力してもらった友人(誠也ではない)も羨ましがっていた程である。
「・・・(そのおかげで同居出来るようになりましたから良かったです)」
「うん?何か言った?」
莉緒ちゃんが小声で呟いていたので訊き返すと、どこか慌てた様子になる。
「い、いえ、どんな方が来られるのかなと思いまして」
あの慌てようからして絶対に別の事を言っていたはずだけど、特に突っ込む必要も無いと思い今の話題に乗ることにする。
「う〜ん、このアパートって広いから家族連れとかじゃないかな」
実際にこのアパートの住人は俺を除いて家族連れだったはずだし、以前に下の部屋に入居していたのも家族連れであった。
「そのうち挨拶に来てくれるかもしれないね」
下の部屋といってもこのアパートは玄関が全て1階にあるので玄関が隣同士となっている。そういう意味では隣人と言っても良いだろう。
ただ最近では隣人に挨拶しないというのも多くなったし、仮に顔合わせが無かったとしても特段生活に影響は無いんだけど。
・・・と、この時は思っていた。
『ピンポーン』
引っ越しの物音にも慣れて引き続きのんびりとリビングで過ごしていた時、インターホンが鳴った。
「今日は何か届く予定の荷物ってありました?」
「いや、無いと思う」
心当たりが無いのでインターホンに付いているカメラの映像を見ると、そこには1人の女性が立っていた。顔は帽子に隠れて見えないけど、立ち姿からして若そうな感じがした。
「ひょっとして今日引っ越して来た方ではないでしょうか?」
「かもしれないな。ちょっと出てくる」
俺はすぐに階段を降りて玄関の扉を開ける。
「初めまして、今日引っ越して来まし・・・あら?」
女性が顔を上げて目線が合うと、驚いたような表情を浮かべる。その理由は俺もよく分かった。なぜなら・・・
「ヒロさん、ですか?」
「彩音さん・・・?」
お互いが知り合いだったから、である。
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4章開幕です。




